学科Ⅲ(法規)
一級建築士 令和5年度 学科Ⅲ(法規) 問22
問題・正答・学習用解説
問題
建築士事務所の開設者に関する次の記述のうち、建築士法上、誤っているものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
正解は1です。建物の調査だけを受託する契約は、建築士法の設計受託契約・工事監理受託契約に対する重要事項説明と契約締結後の書面交付の規定の対象ではありません。建築士事務所が行う業務の全てへ、この二つの手続を一律に広げた点が誤りです。
建築士事務所は、設計、工事監理のほか、建物の調査や鑑定等の業務も行います。重要事項説明は、建築主が設計や監理を依頼する前に、作る図書、監理の方法、担当者、報酬等を理解して契約できるようにする手続です。契約後の書面は、合意した内容を明確に残すものです。これらの規定は、条文が対象とする契約の種類を限定しています。
例えば既存建物の劣化状況を調べる調査だけを頼まれた場合、その業務を設計契約だと読み替えることはできません。一方、調査に続いて設計や工事監理も契約する場合は、その契約内容に応じて対象となる手続を判断します。法律上この特定の説明・書面義務がないことは、業務範囲や料金を曖昧にしたまま契約してよいという意味ではありません。本問は、法定の対象をどこまでとするかを正確に読む問題です。事務所登録、年次報告、一定規模の契約書面とは別に整理します。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)誤りです。建物に関する調査業務だけの契約は、設計・工事監理の受託契約を対象とする重要事項説明と契約後書面交付の規定には含まれません。『建築士事務所が受ける仕事』という広い分類だけで、全て同じ手続にすることはできません。実際に何の成果や業務を約束する契約かを確定します。調査のみでも契約内容の明確化は大切ですが、それをこの条文の法定義務であると説明することとは異なります。設計や監理を伴う場合は、その契約の内容から別に判断します。
選択肢2
(2)適当です。事務所の開設者は、事業年度ごとに業務実績等の報告書を作り、年度経過後3月以内に、事務所登録をした都道府県知事へ提出します。事務所がどのような業務を行っているかを行政が把握するための制度です。事業年度は事務所の会計上の年度であり、必ず1月から12月とは限りません。例えば3月末に事業年度が終わるなら、その後3月以内という起点で管理します。所属建築士個人の免許変更届と混同せず、開設者が行う事務所の年次報告として整理します。
選択肢3
(3)適当です。建築士事務所の登録が抹消された後、報酬を得て設計等を業として行えば、無登録での業務に当たります。本年度の法では1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象です。建築士個人の免許を持つことと、報酬を得て業として設計等を行う事務所の登録は別の条件です。過去に登録していたとしても、更新せず効力を失った後まで続けて営業できるわけではありません。登録の有効期間と更新を、個人の資格とは分けて管理する必要があります。
選択肢4
(4)適当です。延べ面積300m²を超える建物の新築の設計受託契約では、図書の種類、担当者、報酬や支払時期、解除等の所定事項を記載し、署名または記名押印した書面を当事者間で相互に交付します。所定の承諾等により電子的方法を用いる扱いもあります。契約の仕事と対価を明確にし、後から内容が食い違うことを防ぐ制度です。開設者から一方的に通知する契約後書面の規定とは異なり、契約当事者が相互に交付するという点を確認します。
周辺知識
事務所に関する義務は、事務所を運営する手続と、個々の依頼を受ける契約の手続に分けられます。事務所登録と更新、毎年度の業務報告は運営に関するものです。重要事項説明、契約書面、報酬や業務範囲の明確化は、依頼者との個別の契約に関するものです。主体、提出先、行う時期が異なるので、一つの書面で全て済むとは考えません。
重要事項説明は、設計・工事監理の契約を建築主と結ぶ前に、その判断材料を渡すためのものです。契約後の書面交付は、成立した契約の内容を残すためのものです。300m²超の新築等の契約に関する相互交付の規定は、契約当事者双方に関わります。書面の内容が似ていても、時点や対象、誰が誰へ交付するかが違います。
調査、設計、工事監理は、建築士事務所の業務として関連していても、法律の対象契約では区別します。現場を調べる仕事だけを受けるのか、調べたうえで改修設計まで行うのかで、契約の内容は違います。まず約束した業務の範囲を明らかにし、その契約に対応する法定手続を当てはめます。手続の対象外という結論は、適切な説明や合意を軽視してよいという意味ではありません。