学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和3年度 学科Ⅳ(構造) 問25
問題・正答・学習用解説
問題
既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断・改修に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(2)
正答の考え方
そで壁と柱の間へ耐震スリットを設けることを、柱の耐力を向上させる方法と説明した記述が不適切です。そで壁は柱の横に付く壁で、一体であると柱の剛性や耐力、変形の仕方に影響します。スリットで切り離すのは、その拘束や脆い破壊への影響を減らし、主に変形能力を改善するためです。
壁を切り離すと、柱と壁が一体で抵抗していた有効断面を小さくする方向になるため、水平耐力や剛性は低下する場合があります。それでも、壁との一体化でせん断破壊などが先行していた状態から、柱が曲げによって粘り強く変形できる状態へ変えられれば、耐震性を改善できます。耐力を大きくすることだけが耐震改修ではありません。
ただしスリットを入れた後の建物全体の必要耐力、変形、力の分担を確認することが前提です。一方、枠付き鉄骨ブレースの増設は、新たな水平抵抗部材を加えて耐力を高める方法です。炭素繊維巻付けは柱を横から拘束してせん断破壊等を抑え、変形能力を改善する方法です。それぞれ何を増やし、何を取り除く改修かを分けて理解します。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)腰壁や垂れ壁が柱に一体化すると、柱が自由に曲がれる長さが短くなり、短柱として大きなせん断力を受けやすくなります。同じ両端の曲げモーメントでも、内法高さが短いほどせん断力は大きくなります。そのため壁のない柱より先に脆く破壊するおそれがあり、記述は適切です。壁が付けば必ず丈夫になるわけではありません。壁の高さや柱との接続によって、柱のどの長さが変形に使えるかを確認します。
選択肢2
(2)そで壁を切り離すスリットは、主として柱の拘束を減らして変形能力を改善する方法です。壁と柱が協力していた断面を分けるので、耐力や剛性を増やすとはいえず、低下する場合もあります。記述は改修の目的を取り違えています。耐力が少し下がっても急な破壊を防ぎ、必要な力を保って変形できれば耐震性が改善する場合があります。ただし切り離した後の全体の耐力不足や、残る壁の面外支持等を別に確認する必要があります。
選択肢3
(3)枠付き鉄骨ブレースは、既存RCの柱梁の内側などへ鉄骨枠と筋かいを設け、新しい水平力の経路を加える補強です。筋かいが軸力で抵抗するため、建物の水平耐力を向上させる方法として適切です。ただし鉄骨だけを強くしても、既存躯体との接合で力を渡せなければ機能しません。アンカーや接合面、周囲の既存部材、基礎まで必要な力を伝えられることを確認します。補強を片側へ集中させてねじれを増やさない配置も重要です。
選択肢4
(4)炭素繊維を柱の周囲へ巻き付けると、繊維の高い引張抵抗によって柱の横膨らみやせん断ひび割れの開きを抑えられます。コンクリートの拘束や主筋の座屈防止に役立ち、柱の変形能力を改善する方法として適切です。ただし繊維の方向、重ね継ぎ、下地の状態、角部の処理など、所定の施工条件が必要です。柱の表面へ材料を貼るだけではなく、周方向に連続して拘束力を伝えられることが性能の前提となります。
周辺知識
耐震診断では、建物の強度だけでなく、部材の変形能力や形状の偏り、劣化などを評価します。改修は診断で見つけた弱点へ対応させます。水平抵抗が不足するなら壁やブレースを増設し、柱が脆く壊れるなら巻付けや鋼板等で拘束を強化する、といった考え方です。
スリットは、部材を追加する補強とは違い、悪い影響を与える拘束を取り除く工夫です。腰壁等による短柱化や、そで壁付き柱の破壊形式を改善する場合があります。ただし力の分担が変わるため、スリットのある柱だけでなく他の柱や壁、床、基礎を含めて再評価します。
炭素繊維や鋼板による拘束は、せん断破壊やコンクリートの崩れを抑え、曲げ降伏後の変形を保つために使います。耐力を増す方法と靱性を増す方法には重なる効果もありますが、主目的を整理すると理解しやすくなります。改修後にどの部材がどの順序で限界へ達するかを確認し、建物全体の安全性につなげることが大切です。