学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和3年度 学科Ⅳ(構造) 問7
問題・正答・学習用解説
問題
地震時における建築物の振動に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
変位応答スペクトルが、一般に周期が長いほど小さくなるという記述が不適切です。応答スペクトルは、同じ地震動を、固有周期の異なる多数の単純な振動モデルに与え、それぞれに生じる最大の応答を並べた図です。変位応答なら、地面に対して建物が最大でどれだけ相対的に動くかを表します。
周期の短い硬い建物は地面の動きに比較的追従し、相対変位が小さくなりやすい一方、周期の長い柔らかい建物はゆっくり大きく動くため、一般に変位応答は大きくなる傾向があります。長周期化によって加速度や地震力を減らせる場合でも、移動する距離まで小さくなるとは限りません。免震で建物周囲に移動用の空間が必要になることにもつながります。
ただし実際のスペクトルには、地震動の周期成分や減衰によって山谷があります。「全ての周期範囲で必ず増え続ける」と逆向きの断定をするのも適切ではありません。本問では、変位応答の一般的な傾向を、加速度応答の低減などと取り違えたことを判断します。横軸の周期だけでなく、縦軸が変位・速度・加速度のどれかを最初に確認します。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)一般に長周期側では変位応答が大きくなる傾向があり、小さくなるという記述は不適切です。ゆっくり揺れることは、動く距離が小さいことを意味しません。加速度が小さくても、時間をかけて大きな距離を往復することがあります。ただし特定の地震記録のスペクトルは山谷を持つため、任意の二つの周期の値を一般論だけで決めることはできません。比較対象が応答のどの量か、どの周期範囲の傾向かを区別します。
選択肢2
(2)質量、水平剛性kの一つの振動モデルでは、固有周期はです。質量が同じなら、kが大きいほど元の位置へ戻す力が強くなるため、往復の時間は短くなります。たとえばkを4倍にするとTは半分です。剛性は変形しにくさであり、部材が壊れるまでの強さとは同じではありません。降伏強度だけを高めて剛性が変わらなければ、この式による周期が同じ割合で短くなるわけではありません。
選択肢3
(3)建物には複数の固有の揺れ方があり、最も低い固有振動数を一次、次に低いものを二次と呼びます。周期は振動数の逆数なので、一次固有周期は二次固有周期より長くなります。一次は全体が同じ向きへ大きく曲がる形が代表的で、二次以上では高さの途中で動く向きが変わる形が現れます。ただし地震応答の大きさは各モードの刺激されやすさにも左右され、常に一次だけで全ての応力を正確に表せるとは限りません。
選択肢4
(4)RC造ではコンクリートや接合部の性質、微細なひび割れ等によるエネルギー消費を考慮し、一般に鉄骨造より大きな内部粘性減衰の減衰定数を用います。減衰定数は、揺れが失うエネルギーを振動モデルで表すための指標です。実際の建物の減衰は仕上げ、接合、振幅、損傷状態などにも影響されます。材料名だけで実測値が一つに決まるわけではありませんが、通常の設計上の一般的な大小を述べた記述として適切です。
周辺知識
周期は一往復の時間で単位は秒、振動数は一秒当たりの往復数で単位はHzです。周期が2秒なら振動数は0.5Hzとなります。変位は位置の変化、速度は位置の変化の速さ、加速度は速度の変化の速さです。地震で建物へ生じる慣性力は質量と加速度に関係します。
これらは関連しますが、最大値の大小を同じ向きに扱えません。たとえば大きくゆっくり動く振動は、変位が大きくても加速度が小さい場合があります。スペクトルを読むときは、縦軸の量と単位、横軸の周期、モデルに設定した減衰を確認します。
減衰は振動エネルギーを失わせる仕組みで、一般に同じ条件なら減衰が大きいほど応答を抑える方向です。多層建物では複数の揺れ方が重なるため、一次周期だけでなく高次モードも必要に応じて評価します。剛性を変えて周期を調整する、減衰を増してエネルギーを消費する、必要な変形量を確保する、という三つを分けて考えると耐震・制振・免震の違いを理解できます。