学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和7年度 学科Ⅳ(構造) 問17
問題・正答・学習用解説
問題
鉄骨構造の耐震設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
剛性率と偏心率は、どちらも地震時に変形が偏る問題を扱いますが、見る方向が違います。剛性率は建物を縦に見て、他の階に比べて特に柔らかい階がないかを表す指標です。偏心率はある階を平面で見て、重さの中心である重心と、水平抵抗の中心である剛心がどれだけ離れているかを表します。
地震時のねじれを抑える目的で主に確認するのは偏心率です。平面の片側だけに耐力壁や筋かいが集まると、重心へ作用する地震力と剛心の抵抗がずれ、建物を回す作用が生じます。各階の剛性率を大きくするという選択肢3は、この平面内のずれを直接改善する方法になっていません。剛性率を良好にしても、各階の壁が同じ側へ偏っていればねじれは残り得ます。
剛性率を改善すること自体は、ある階だけに変形が集中するのを抑えるために役立ちます。しかし、目的をねじれの抑制とした本問では指標の取り違えです。建物を横から見た「階ごとの柔らかさ」と、上から見た「抵抗位置の偏り」を分けて考えると、用語を丸暗記せずに選択肢を判断できます。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)設計ルートは、建物の規模や構造上の条件に応じて選べる確認手順です。ルート1-2の適用条件を満たす建物でも、より詳細に保有水平耐力などを調べるルート3で設計することはできます。簡便な確認方法を使えるということは、それ以外の方法を禁止するという意味ではありません。ただし、ルート3を選んだなら、そのルートで要求される検討を一通り行います。都合のよい項目だけを別々のルートから選んで省略することはできません。
選択肢2
(2)ルート2の地震力算定で標準せん断力係数を0.2とする記述は適切です。この係数は、建物の重量に対して地震力をどの程度の水準で見込むかという基になる値で、地域や振動特性、高さ方向の分布の係数と組み合わせます。保有水平耐力の検討の基となる1.0以上という値を、そのまま全ての設計段階へ移すのではありません。ルートの名称だけでなく、許容応力度を確認する地震力なのか、終局時の必要耐力なのかを読み分けます。
選択肢3
(3)ねじれは平面内の抵抗の偏りが主な問題なので、重心と剛心のずれを反映する偏心率に着目します。剛性率は各階の硬さの相対関係で、例えば1階だけ柱・壁が少ない建物で1階へ変形が集中する問題に対応します。両者とも重要ですが、一方の指標をよくすれば他方も自動的によくなるわけではありません。平面の片側へ筋かいを増やすと階全体は硬くなっても、むしろ抵抗位置の偏りが大きくなる場合があります。
選択肢4
(4)部材群の種別Cは、種別Aに比べて、塑性変形を安定して続ける能力が低い側の分類です。変形しながら地震のエネルギーを吸収する能力へあまり期待できない分、必要とする水平の強さを大きく見込みます。そのため構造特性係数を大きくする記述は適切です。が大きいことは「性能がよい」という点数ではなく、必要耐力を増やす方向に作用する係数です。材料の強度だけでなく、幅厚比や座屈などに関わる変形能力を反映します。
周辺知識
一階が駐車場で壁が少なく、上階に多くの壁がある建物を想像すると、一階だけが柔らかくなり、地震時の変形がそこへ集中する可能性があります。これが高さ方向の不均一さで、剛性率の考え方につながります。一方、建物の北側に壁が集まり、南側に大きな窓が並ぶ場合は、平面内の抵抗が偏ってねじれやすくなります。こちらは偏心率の問題です。
剛性は力に対してどれだけ変形しにくいか、耐力はどれだけ大きな力に耐えられるかです。壁や筋かいの追加は両方へ影響しますが、配置によっては新しい偏りも作ります。特定の部材だけを強くする前に、各階と各方向で力の流れをそろえる構造計画が重要です。
保有水平耐力計算では、変形能力を表すと、剛性率・偏心率などの不整形さを反映する係数が必要耐力へ作用します。粘り強く変形できることと、変形が特定の階や平面の片側へ集中しないことは、別々の条件です。同じ「地震に強い」という言葉にまとめず、どの弱点をどの指標で確認するかを対応させます。