学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和7年度 学科Ⅳ(構造) 問16
問題・正答・学習用解説
問題
鉄骨構造の接合部に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
溶接継目の「のど断面」は、力を伝える溶接部の有効な断面です。完全溶込み溶接は部材厚さ全体まで溶け込ませ、部分溶込み溶接は一部に溶け込んでいない部分を残します。この違いは有効な断面積などに影響しますが、同じ基準強度などの条件で、のど断面へ用いる長期許容せん断応力度が形式だけで変わるということではありません。選択肢1が不適当です。
許容応力度は面積当たりに許す力で、接合部が負担できる許容力は、その値へ有効のど断面積を掛けて求めます。例えば同じ許容せん断応力度でも、のど厚が小さくなれば面積が減り、接合部の許容力は小さくなります。「応力度が同じ」と「接合部全体の耐力が同じ」は区別します。溶込み形式の違いがあるから全ての許容応力度が違う、と広げて考えるのが誤りです。
また、接合部には使用時に滑らないことを確かめる段階と、最終的に破断しないことを確かめる段階があります。高力ボルト摩擦接合では、前者は鋼板面の摩擦、滑った後の後者ではボルトと孔の接触による支圧などが関係します。何を限界としている計算かによって、使う抵抗機構を読み分けます。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)同じ鋼材の基準強度などの条件では、完全溶込み・部分溶込みという形式だけを理由に、長期許容せん断応力度を異なるとすることはできません。違うのは有効なのど厚や断面積などであり、それによって接合部全体が伝達できる力は変わります。引張りに対する扱いなど、溶接形式で異なる別の規定をせん断へ混ぜないことが重要です。応力度の単位と、面積を掛けた許容力の単位を分けて考えると整理できます。
選択肢2
(2)組立溶接は、本溶接の前に部材の位置を保持するための溶接です。短いビードでは入れた熱が周囲へ逃げやすく、冷える時間が短くなり、熱を受けた部分が硬く脆い組織になりやすくなります。水素などの条件も重なると低温割れの危険が高く、塑性変形能力も損ない得ます。小さな仮止めだから構造性能へ影響しないとはいえません。本溶接に残る部分では、必要なビード長さや予熱など、適切な施工条件を確保します。
選択肢3
(3)摩擦接合は、ボルトを強く締めることで鋼板同士の接触面に摩擦を生じさせ、滑る前に力を伝える接合です。さらに荷重を増やして滑りが起きると、ボルトの軸と孔の縁が接触し、押し合う支圧やボルトのせん断でも力を伝えます。破断耐力という最後の限界を調べる場合には、その支圧接合状態を想定できます。滑りを許さない使用時の検討を省略するという意味ではなく、調べる限界に応じて機構を区別している記述です。
選択肢4
(4)二面せん断は、中央の板を左右の添板で挟むように、力を伝える接合面が二つある状態です。この高力ボルト摩擦接合の長期許容せん断応力度は、本問の応力度単位で示した基準張力に対して0.6倍とする記述で適切です。一面の場合と面数を取り違えると、伝達できる力を過大または過小に見積もります。をで使う式と、ボルト一本の締付け力をで表す値は、単位をそろえて区別します。
周辺知識
隅肉溶接を断面で見ると、おおむね三角形になります。見かけの盛り上がり全体がそのまま有効とは限らず、力が通る最小部分に対応するのど厚を使い、溶接の有効長さを掛けてのど断面積を求めます。溶込み溶接でも、有効断面の決め方と、その面積に許せる応力度を分けて計算します。
鋼を溶接すると、溶けた部分だけでなく、周囲の熱影響部も加熱・冷却で性質が変わります。冷却速度、鋼の成分、板厚、含まれる水素などが、割れや粘り強さに関係します。太い部材を大きな溶接でつなげば何も問題がないわけではなく、施工条件と検査まで含めて性能を確保します。
摩擦接合では、ボルトの強さだけでなく、締付けで導入した張力と鋼板面の状態が滑りにくさを決めます。油や不適切な塗膜などで接触面の条件が変われば、同じボルトでも同じ摩擦抵抗を期待できません。一方、滑った後の破断の検討では、ボルト軸、孔周囲の板、板の縁など別の破壊箇所も調べます。「滑り」「降伏」「破断」のどの限界を扱うかを先に確かめます。