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学科Ⅰ(計画)

一級建築士 令和6年度 学科Ⅰ(計画) 問17

問題・正答・学習用解説

問題

美術館(所在地)に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    富弘美術館(群馬県)は、様々な大きさの矩形の展示空間が独立して配置され、その間の空間も展示や交流のためのスペースとなるように計画されている。
  2. (2)
    ポーラ美術館(神奈川県)は、周囲の景観を極力損なわないよう、すり鉢状の構造体を地下に埋め込んで建築物の高さを抑え、美術館の中心を貫くアトリウムにより自然光を取り入れることで、自然と美術との共生を目指した空間が計画されている。
  3. (3)
    京都市京セラ美術館[京都市美術館](京都府)は、昭和初期に開館した美術館の既存のメインエントランスを残し、スロープからつながる地下広場に面した新たなエントランスを設けるなどの改修がされている。
  4. (4)
    豊島美術館(香川県)は、鉄筋コンクリートのシェル構造による屋根の大きな開口部から、周囲の風・音・光を内部に直接取り込むことで、周辺環境と建築物、展示作品とを一体で感じられるように計画されている。

正答と解説

正答:(1)

正答の考え方

正解は(1)です。富弘美術館の特徴は、大小さまざまな「円形」の空間を集めた平面構成です。矩形とは長方形や正方形のように四つの直角をもつ形なので、設問は建築を特徴づける形を取り違えています。円い部屋が並び、その間に生まれる空間も含めて、展示や交流を体験する構成を思い浮かべましょう。
四つの美術館に共通するのは、作品を置く箱をつくるだけでなく、来館者が移動し、光や周囲の景色に接する経験を設計している点です。ポーラ美術館は建物の多くを地下へ収めて森の景観への影響を抑え、中央の吹抜けから光を導きます。京都市京セラ美術館は歴史的な正面を継承しながら低い位置に入口を加えています。豊島美術館は大きな開口を通じて風や音まで内部へ取り込みます。名称を一つずつ暗記するより、「富弘=円の集まり」「ポーラ=森の下と吹抜け」「京都=既存と新しい入口」「豊島=自然へ開く殻」という空間の仕組みを対応させると、誤りを判断できます。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)不適当です。富弘美術館では、様々な大きさの円形の空間が集まっています。「矩形の展示空間」という部分が誤りです。円はどの方向にも連続する曲面をもつため、直線の廊下に四角い展示室を並べる構成とは、進み方や見通しが異なります。円形の室とその間に生じる場所をたどることで、展示を見たり、人と出会ったりする空間がつくられています。建物名とともに、平面図の輪郭を思い出すのが有効です。

選択肢2

(2)適当です。ポーラ美術館は、箱根の森の景観と共存するため、高さを抑えて建物の多くを地下へ収めています。ただ地下に埋めるだけでは暗く閉鎖的になるため、建物中心のアトリウム、すなわち複数階を貫く吹抜けに自然光を取り入れます。すり鉢状の地下構造と内部建物の関係には、地盤や免震への配慮もあります。景観への配慮と明るい内部空間を、断面方向の工夫によって両立させた例です。

選択肢3

(3)適当です。京都市京セラ美術館の改修では、昭和初期の建築がもつ正面性や歴史的な入口を残しながら、地下広場に面する新しい入口を設けています。スロープでつながる広場から入館する構成により、既存建物の表情を継承しつつ利用の経路を更新しています。歴史的建築の再利用は、外観を残すだけではありません。現在必要な受付、移動のしやすさ、新しい展示活動などを、既存の空間と調整することが大切です。

選択肢4

(4)適当です。豊島美術館は、薄い曲面の殻で力を支える鉄筋コンクリートのシェル構造を用いています。屋根の大きな開口は、外の光だけでなく風や音も直接内部へ伝えます。そのため天候や時間によって、作品を体験する空間の様子も変わります。一般的な絵画展示室のように外部環境を一定に遮断する方式とは異なり、この場所の作品と建築に適した、自然との一体的な体験をつくる計画です。

周辺知識

美術館では「展示」「保存」「鑑賞者の体験」がいつも同じ条件を求めるとは限りません。来館者には明るい窓や自然の眺めが魅力でも、紙や染料を使った作品には強い光が劣化の原因になります。そこで、ロビーや休憩場所へ自然光を入れ、展示室では光を調整するなど、空間ごとの役割を考えます。豊島美術館のように環境の変化そのものが作品体験に関わる例を、全ての収蔵品に適用できると考えてはいけません。
平面は上から見た部屋の並び、断面は建物を縦に切った関係です。富弘美術館は円の集まりという平面の特徴、ポーラ美術館は地下へ収めながら吹抜けで光を導く断面の特徴が理解の手掛かりになります。京都市京セラ美術館は、既存の正面と新しい低い入口との高さの関係が重要です。
実例を学ぶときは、所在地や設計者だけで終わらず、「何を大切にしたか」「そのためにどの形や経路を使ったか」を一組にします。形の違いを、景観、保存、移動、交流という目的へ結び付けると、初めて見る建築の計画も読み取りやすくなります。