学科Ⅰ(計画)
一級建築士 令和6年度 学科Ⅰ(計画) 問3
問題・正答・学習用解説
問題
西洋の歴史的な建築物(所在地)に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(4)
正答の考え方
正解は(4)です。広大な幾何学的庭園や鏡の間という特徴は、フランスのヴェルサイユ宮殿を指します。イギリスのウェストミンスター宮殿は国会議事堂として使われる建築で、19世紀に再建された部分はゴシック・リヴァイヴァルの代表例です。本肢は建築物と様式を取り違えています。
ゴシック・リヴァイヴァルは、中世に発達した尖ったアーチや垂直性を強調する装飾などのゴシックの表現を、後の時代に再び用いる動きです。ウェストミンスター宮殿では、議会の機能に合わせた計画へ歴史的な表現を組み合わせています。中世にそのまま建てられたゴシックの大聖堂と、建設時期まで同じではありません。
ヴェルサイユでは、長く延びる軸線、整然とした庭園、鏡や絵画を用いた室内装飾などが、王宮の儀礼や権威の表現と結び付きます。「宮殿」という日本語名や豪華な内装だけでは両者を区別できません。建築物の所在地、主要な用途、平面と外観の構成を合わせて読み、特に鏡の間という固有の特徴を正しい事例に対応させます。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)適当です。サン・マルコ大聖堂は、ギリシア十字形を基本とし、中央と四つの腕の上にドームを置く構成です。ギリシア十字は四方向の腕がほぼ同等に展開する十字で、中央を中心に空間がまとまりやすくなります。ドームは半球等に近い曲面で上部を覆う構造です。このような集中式の構成と複数ドームはビザンツ建築との関係を示します。十字という宗教的な形と、天井がどこで高くなるかを一緒に想像すると特徴が分かります。
選択肢2
(2)適当です。シュパイヤー大聖堂は、長い主軸に横向きの袖廊を交差させたラテン十字形のロマネスク建築です。中央の身廊と左右の側廊による三廊式で、祭壇側の内陣や各部の塔が全体を構成します。袖廊は建物の袖のように横へ張り出す部分です。ロマネスクでは厚い壁、半円アーチ、量感のある塔などが特徴となります。塔の位置を名称だけで覚えず、入口側、十字の交差部、祭壇側という建物内の位置関係で捉えます。
選択肢3
(3)適当です。パリのノートルダム大聖堂は、中央の身廊の左右に側廊を二列ずつ持つため五廊式になります。内陣の周囲を回る周歩廊も二重で、礼拝や移動のための空間が重なっています。バラ窓は花のような放射状の構成を持つ大きな円形窓で、西面の双塔とともに特徴的です。ゴシックではリブ・ヴォールトや外部の支持などにより高い空間と大きな窓を成立させます。平面の列数と、構造が可能にした光の取り入れ方をつなげます。
選択肢4
(4)不適当です。鏡の間や大規模な幾何学庭園はヴェルサイユ宮殿の特徴です。ウェストミンスター宮殿は、議会の場として再建されたゴシック・リヴァイヴァルの建築です。リヴァイヴァルは復興・再興という意味で、中世の形を19世紀の建築に用いることを示します。ゴシック風の尖塔や縦の細かな意匠と、バロックの王宮・庭園という組合せを区別します。「豪華だからバロック」という見た目だけの推測では、様式と用途を誤りやすくなります。
周辺知識
教会の平面を読むための基本語を整理します。身廊は会衆が集まる中央の長い空間、側廊はその両側の空間、内陣は祭壇などのある奥の部分、袖廊は主軸を横切る部分、周歩廊は内陣の周囲を回る通路です。三廊式や五廊式の数字は階数ではなく、横方向に並ぶ空間の列を数えています。
バシリカ式は、主に入口から奥へ向かう長軸に沿って空間が構成されます。集中式は中心の周囲に空間がまとまる形式です。ラテン十字形は長軸が伸び、ギリシア十字形は四つの腕が比較的均等という違いがあります。実際の教会には改修や増築が重なり、複数の性格を持つものもあります。
様式は装飾の名前だけではなく、構造技術と宗教・社会の要請に関係します。石の天井の力をどう支えるかが、壁の厚さや窓の大きさに影響します。また19世紀の歴史主義では過去の様式を選んで再利用するため、外観の印象と建設年代が一致するとは限りません。時代、構造、用途の三点を確認すると、建築の取り違えを防げます。