学科Ⅲ(法規)
一級建築士 令和6年度 学科Ⅲ(法規) 問22
問題・正答・学習用解説
問題
建築士事務所の開設者に係る「工事監理」に関する次の記述のうち、建築士法上、誤っているものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(4)
正答の考え方
正解は4です。工事監理報告書は、工事監理を行った結果を建築主へ伝える書類です。建物は完成後も長期間使われるため、後から不具合や改修の必要が生じたときに、当時どのような監理が行われたかを確認できることが重要です。このため建築士事務所の開設者には、業務に関する図書を保存する義務があります。
工事監理報告書の保存期間は、作成した日から起算して15年間です。選択肢4の5年間ではありません。例えば令和6年に作成した報告書を、単に5年経ったからという理由で廃棄すると、法定の保存期間を満たさないことになります。
5年という数値は、建築士事務所の登録の有効期間などと混同しやすい数値です。しかし、登録の更新は事務所が業務を続けるための手続、報告書の保存は過去の業務の経過と責任を確かめるための記録管理であり、目的が違います。また、保存期間は『監理が終わってから』と曖昧に覚えず、この図書では作成日から数えることまで確認します。書類の種類、期間、起算日を一組にして整理しましょう。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)正しい記述です。事務所の開設者には、工事監理などの業務によって生じた損害を賠償できるよう、保険契約その他の措置を講ずる努力義務があります。万一専門業務の誤りで損害が生じても、賠償する資力がなければ依頼者の救済が難しくなるためです。ただし、特定の保険へ必ず加入するという一律の義務ではありません。『努めなければならない』という表現どおり、賠償資力を確保するための備えを促す規定として理解します。
選択肢2
(2)正しい記述です。開設者は、設計や工事監理などの実績を記載した業務報告書を、事業年度ごとに都道府県知事へ提出する義務があります。提出しない場合は、30万円以下の罰金の対象です。事務所登録を一度受けた後も、その業務の実態を行政が把握できるようにするための制度です。これは建築主へ渡す一件ごとの工事監理報告書とは別の書類です。提出先、対象期間、報告する内容を分けると、二種類の報告書を混同せずに済みます。
選択肢3
(3)正しい記述です。延べ面積300m²超の新築に係る工事監理には、一括再委託を禁止する規定があります。一方、本問は300m²以下なので、その一律の禁止対象ではなく、委託者の許諾を得て一括して別の事務所へ委託することができます。依頼者が選んだ事務所から、知らないうちに業務が丸ごと別へ移ることを防ぐため、許諾が重要になります。規模条件に該当しないことから、依頼者に無断で自由に再委託できると考えてはいけません。
選択肢4
(4)誤りです。工事監理報告書は、作成日から15年間保存しなければなりません。5年では10年不足します。建物の不具合は、引渡しの直後だけでなく、使用を続けた後に明らかになることもあるため、専門業務の記録を長期間残します。なお、帳簿にも保存義務がありますが、帳簿は事業年度末に閉鎖した翌日を起算日とするなど、書類によって数え始めが違います。報告書の作成日から15年という組合せを正確に確認します。
周辺知識
建築士法には、建築士個人の専門業務に関する義務と、建築士事務所を運営する開設者の義務があります。工事が設計図書と違う場合の指摘や、監理を終了したときの結果報告は、監理を行う建築士の業務です。一方、帳簿や図書を保存すること、事業年度ごとの業務報告を提出することなどは、事務所の運営を適正に保つための開設者の義務です。
報告書という名前でも、相手と目的が違います。工事監理報告書は、個別の工事の監理結果を建築主へ伝えます。設計等の業務に関する報告書は、事務所の業務実績などを年度ごとに都道府県知事へ伝えます。書類を提出したことと、その控えや関連図書を保存することも別々の責任です。
再委託の規定は、依頼者が期待した責任体制を守るためのものです。専門分野の一部を別の事務所へ依頼することと、業務全部を丸ごと移すことでは、依頼者に与える影響が違います。本問では300m²超か以下かという新築の規模と、委託者の許諾を確認します。例外を使える場合でも、当初の受託者の契約上の責任が当然に消えるわけではないことを理解しましょう。