資格ナビ一級建築士の演習へ

学科Ⅲ(法規)

一級建築士 令和6年度 学科Ⅲ(法規) 問12

問題・正答・学習用解説

問題

鉄筋コンクリート造、高さ31mの建築物の構造計算に関する次の記述のうち、建築基準法上、誤っているものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    許容応力度等計算を行う場合、建築物の地下部分の各部分に作用する地震力は、当該部分の固定荷重と積載荷重との和に、原則として、所定の式に適合する地震層せん断力係数を乗じて計算しなければならない。
  2. (2)
    許容応力度等計算を行う場合、建築物の地上部分については、所定の地震力によって各階に生ずる層間変形角が所定の数値以内であることを確かめなければならない。
  3. (3)
    保有水平耐力計算を行う場合、各階の剛性率がそれぞれ\(\frac{6}{10}\)以上であることを確かめなくてもよい。
  4. (4)
    限界耐力計算によって安全性を確かめた場合には、保有水平耐力計算又はこれと同等以上に安全性を確かめることができるものとして国土交通大臣が定める基準に従った構造計算を行わなくてもよい。

正答と解説

正答:(1)

正答の考え方

正解は1です。地震のときに建物へ作用する力は、地上部分と地下部分で同じ算定方法ではありません。地上部分は地面より上で揺れ、上の階の質量による力が下の階へ伝わります。そこで、各部分が支える重さに、建物の高さ方向の揺れ方などを考慮した地震層せん断力係数を掛けます。
一方、地下部分の地震力は、原則として、その部分の固定荷重と積載荷重の和に、深さに応じた『水平震度』を掛けて求めます。水平震度の下限は0.1×(1−H40)×Z\displaystyle 0.1\times(1-\frac{H}{40})\times Zです。Hは地盤面からの深さで、20mを超える場合は20mとし、Zは地域の地震の性状に応じる係数です。例えば深さ10m、Z=1\displaystyle Z=1なら、水平震度は0.075以上となります。
したがって、地下部分にも地上用の地震層せん断力係数を使うとした選択肢1が誤りです。建物の高さ31mや鉄筋コンクリート造という条件があっても、地上と地下の算定方法の区別は変わりません。式の暗記だけでなく、その式が建物のどの部分へ適用されるかを確認することが大切です。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)誤りです。地下部分は、固定荷重と積載荷重の和に深さに応じた水平震度を掛けるのが原則です。地震層せん断力係数は地上部分の算定に使う係数なので、用いる場所を取り違えています。例えば地下部分の重さが1,000kNで、採用する水平震度が0.075なら、地震力は75kNです。地下も地震力を考える必要がありますが、周囲を地盤に囲まれた部分と地上で揺れる部分では力の評価の方法が違います。

選択肢2

(2)正しい記述です。層間変形角は、上下の階の水平方向のずれを階の高さで割った値です。例えば階高3mに対して上下のずれが15mmなら、0.0153=1200\displaystyle \frac{0.015}{3}=\frac{1}{200}となります。許容応力度等計算では、所定の地震力による各階のこの値が限度以内かを確かめます。部材が壊れなくても、階が大きく変形すると壁や建具などに支障が出るためです。力に耐えられるかという確認と、変形しすぎないかという確認を併せて行います。

選択肢3

(3)正しい記述です。剛性率は、各階の変形しにくさが建物全体の中でどの程度かを表す比率です。保有水平耐力計算では、各階の剛性率が一律に0.6以上であることを求める代わりに、弱い階などの形状上の不利を、必要な保有水平耐力へ反映して確認できます。したがって0.6以上を必ず満たすとは限りません。ただし、柔らかい階を無視してよいのではなく、その影響を計算し、必要な耐力が確保されることを示す必要があります。

選択肢4

(4)正しい記述です。限界耐力計算は、所定の地震に対して建物の損傷や安全を検証するために法が認める計算方法の一つです。その方法で必要な安全性を確かめた場合、別の計算方法である保有水平耐力計算をさらに重ねる必要はありません。数学で一つの結論を別解でもう一度証明するように、すべての計算法を同時に実施する制度ではないためです。ただし、選んだ方法に含まれる各検証や、その方法でも残る構造の規定は満たす必要があります。

周辺知識

地震に対する建物の安全は、力、変形、偏りという見方を分けると理解しやすくなります。力の確認では、地震で生じる力に部材が耐えられるかを調べます。変形の確認では、階と階のずれが大きすぎないかを調べます。偏りの確認では、ある階だけが柔らかい、壁が片側に集まってねじれやすいといった不均衡を調べます。一つを満たしても、ほかの問題が自動的に解消するわけではありません。
許容応力度等計算では、部材の力や変形を確認した上で、剛性率などの一定の条件を満たすことを確かめます。保有水平耐力計算では、建物の変形能力や不均衡の影響を反映して、大地震に対して必要な耐力があるかを確かめます。このため、同じ剛性率でも、計算方法によって『必ず下限を満たす条件』なのか『必要耐力へ不利を反映する指標』なのかが違います。
地下の水平震度も、実際に感じる震度の数字とは別です。これは設計上、重さに何倍の水平力を見込むかを表す無次元の係数です。テレビの震度5などをそのまま掛けるわけではありません。用語が似ていても、意味と使う式を対応させて理解しましょう。