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学科Ⅱ(環境・設備)

一級建築士 令和6年度 学科Ⅱ(環境・設備) 問5

問題・正答・学習用解説

問題

建築物における防火・防災に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    廊下を避難するときの歩行速度は、一般に、平均照度の低下に伴い遅くなり、1 lx以下では顕著に遅くなる。
  2. (2)
    フラッシュオーバーは、発生すると、一般に、酸素濃度が急激に低下する。
  3. (3)
    火災室で発生した熱を伴った煙は、階段室に流入すると、一般に、1 ~2 m/s程度の速さで上昇する。
  4. (4)
    建築物に使用するアカマツ、ケヤキ等の木材は、一般に、温度が上昇すると可燃性ガスを発生し、260 ℃前後で引火しやすくなる。

正答と解説

正答:(3)

正答の考え方

正解は(3)です。熱い煙が階段室などを上昇する速度は、一般に毎秒3〜5m程度とされ、毎秒1〜2m程度では上昇を過小評価しています。煙は水平方向より鉛直方向へ速く広がりやすい点が重要です。
火災で暖められた煙は、周囲の冷たい空気より密度が小さくなり、浮力によって上昇します。階段室や縦に連続した空間へ入ると、煙突のような通り道になり、上階へ短時間で到達します。1階の火災だから上の階はしばらく大丈夫、と考えられない理由です。例えば上昇する煙が毎秒4mなら、単純な距離速さの目安で高さ12mを約3秒で進みます。実際の速度は温度や開口などで変わるため一律の到達時間ではありませんが、非常に速い現象であることが分かります。
避難計画では、歩く人より煙が速く動き得ることを前提に、階段への侵入を抑える区画や排煙を考えます。数値を暗記するだけでなく、熱い煙の軽さ、縦の通り道、上階への広がりという因果関係を押さえると、水平方向の速度との混同を避けられます。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)適当です。廊下の照度が低下すると、足元の段差や障害物、進む方向を確認しにくくなります。人は転倒を避けるため歩幅を小さくし、慎重になるので歩行速度が落ちます。1lx以下の非常に暗い環境では、その低下が顕著になります。照度lxは面に届く光の量を表す単位で、出口表示が見えるかどうかだけとは違います。避難口を知らせる誘導灯と、通路を照らす照明の両方を計画する理由もここにあります。普段の明るさでの歩行速度をそのまま使わないようにします。

選択肢2

(2)適当です。フラッシュオーバーは、室内で蓄積した熱によって可燃物が一斉に燃え始め、火災が急激に室全体へ広がる現象です。多数の物が同時に燃焼するため、酸素が短時間で大量に消費され、酸素濃度が急低下します。炎が大きくなるのは燃焼反応が増えることで、その反応には酸素が必要だと考えるとつながります。室の一角の炎が少しずつ移るだけの過程ではありません。高温の煙層からの放射が、離れた可燃物も加熱することが急激な変化につながります。

選択肢3

(3)不適当です。階段室に流入した熱い煙は、浮力と縦に連続する流路によって、一般に毎秒3〜5m程度で上昇します。毎秒1〜2mという比較的遅い値を、上昇速度の一般的な目安に使うのは不適当です。煙の広がりは温度、風、開口の状態などに左右されますが、上階へ速く移動するという基本は変わりません。避難者が階段を上り下りする速度を超えることもあるため、煙が来てから移動を始めればよいという考え方にはできません。煙の侵入を防ぐ設計が重要です。

選択肢4

(4)適当です。木材を加熱すると、成分が熱で分解して可燃性のガスを出し、そのガスが空気と混ざって燃えます。アカマツやケヤキなどは、一般に260℃前後で火種があると引火しやすくなるとされます。引火は外から炎などを与えて燃え始めることで、火種なしで自然に燃え始める発火とは区別します。木は固体の表面がそのまま何の過程もなく炎になるのではありません。ガスの発生、空気との混合、点火という順に考えると、加熱と燃焼の違いを理解できます。

周辺知識

建築の火災安全では、炎、熱、煙、視界、酸素を一緒に考えます。煙は熱を持つだけでなく、見通しを悪くし、有害な成分を含むことがあります。火元が直接見えない上階や隣室にも移動するため、火災室だけを守ればよいわけではありません。廊下や階段は人の通り道であると同時に、区画が不十分なら煙の通り道にもなります。
フラッシュオーバーでは、室内上部にたまった高温の煙層が床や家具へ強く熱を放射し、広い範囲で燃焼が進みます。換気が不足した火災で空気が入ったときに急激な燃焼が生じるバックドラフトとは、成立する条件が異なります。似た急激な現象でも、熱の蓄積が中心か、酸素の供給が中心かを分けて理解します。
防火材料の話では、加熱される温度、引火する条件、火種なしの発火を区別します。避難の話では、煙の上昇速度と水平方向の移動、明るい場所と暗い場所での歩行速度を区別します。「速度」「温度」という一つの数字だけを覚えず、どの向き、どの条件、何が起きる瞬間の数値かを添えて覚えると、条件の入れ替えを見抜けます。