学科Ⅰ(計画)
一級建築士 令和5年度 学科Ⅰ(計画) 問17
問題・正答・学習用解説
問題
劇場・舞台に関する用語の説明として、最も不適当なものは、次のうちどれか。選択肢
正答と解説
正答:(4)
正答の考え方
正解は(4)です。歌舞伎劇場の本花道は、客席から舞台を見て左側、すなわち「下手側」に設ける通路状の舞台です。設問の上手側という位置が誤りです。上手は観客から見て右、下手は観客から見て左であり、舞台に立つ俳優の左右から判断しないようにします。
花道は、俳優が舞台へ出入りするための裏方の通路ではありません。客席の中を舞台と同じ高さで通り、登場、退場、立ち止まっての演技などを観客の近くで見せる空間です。物語の中では道や廊下、舞台とは別の場所に見立てられ、舞台上の演技と組み合わせて使われます。演目によって上手側へ仮花道を設ける場合がありますが、それと本花道を混同してはいけません。
本問のほかの用語も、見た目の名称に加えて役割を捉えることが大切です。ワインヤード型は舞台を取り囲む客席、フライロフトは舞台上方の吊物の空間、橋掛りは能舞台へ続く演技の場です。平面上の位置と、断面上の高さを分けて思い浮かべると整理できます。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)適当です。ワインヤードはぶどう畑を意味し、段々畑のように客席のまとまりを高さを変えて配置するホール形式を表します。客席が舞台を取り囲むことで、多くの観客を舞台に近づけやすく、演奏を囲んで共有する雰囲気をつくれます。ただし、全ての席で同じ音や視線が得られるわけではありません。客席ブロックや壁の配置による反射音、舞台への見通しなどを調整し、ホール全体としての音響と鑑賞条件を計画します。
選択肢2
(2)適当です。プロセニアムステージは、舞台と客席の境に額縁状の開口を設け、観客がその枠を通して舞台を見る形式です。フライズ、又はフライロフトは、その舞台の上方にある高い空間で、幕、背景、照明等を吊り上げて納めます。場面転換の際に舞台から見えなくしたいものを、上へ引き上げられる仕組みです。客席から見える舞台の高さだけで建物高さを決められないのは、このような舞台上部の機構があるためです。
選択肢3
(3)適当です。能舞台の橋掛りは、本舞台の後座から鏡の間へ続く廊下状の部分です。出演者が本舞台へ向かうだけでなく、登場人物の移動や気配を表現する演技空間でもあります。観客は、舞台へ着く前の歩みや間にも意味を読み取ります。鏡の間は出演者が舞台へ出る前に身なり等を整える場所です。橋掛りを通常の建物の移動通路と同じものと捉えると、能の空間がもつ演出上の役割を見落としてしまいます。
選択肢4
(4)不適当です。本花道の位置は、観客から舞台を見て左の下手側です。上手側は右になります。上手へ必要に応じて設ける仮花道と、本花道は区別します。客席を通って舞台へ出入りできること、歌舞伎独特の演技の空間であることは正しい説明です。舞台上の俳優から見る左右では逆になるため、問題を読むときは自分が客席に座って舞台を見ている状態を想像し、方向の基準を固定しましょう。
周辺知識
舞台の空間は、観客から見える部分だけでは成立しません。舞台の左右には出演や道具の出入りのための袖があり、上には吊物を扱う空間、下には床を上下させる装置等を納める空間が設けられる場合があります。平面図は左右や奥行き、断面図は上下の関係を読むものです。フライロフトは上方、花道と橋掛りは平面上の連続というように位置を分けて考えます。
劇場ごとに観客と演者の関係も異なります。プロセニアム形式は額縁の向こうの舞台を見る構成ですが、花道は演者が客席の中へ近づくため、その境界を広げます。ワインヤード型のコンサートホールでは、観客が舞台を囲む関係になります。形式の違いは、単なる外観ではなく、どのように演技や音楽を受け取るかに関係しています。
上手・下手は左右の混乱を防ぐ共通の呼び方です。図面や現場で見る方向が変わっても、客席から見た右を上手、左を下手と固定します。花道の位置を覚える際にも、まず客席に座った向きを基準にし、名称と演技上の役割を一緒に整理します。