学科Ⅰ(計画)
一級建築士 令和5年度 学科Ⅰ(計画) 問9
問題・正答・学習用解説
問題
高齢者、障害者等の利用に配慮した建築物の計画に関する次の記述のうち、「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(国土交通省)」に照らして、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
正解は(1)です。車椅子使用者用便房の自動式引き戸は、車椅子が便房内へ完全に入った位置で開閉スイッチを操作できるように計画します。戸先にできるだけ近づけると、車椅子の一部が出入口に残った状態で閉める操作をするなど、戸との干渉が生じやすくなります。国土交通省の建築設計標準では、開閉盤を戸から70cm以上離し、高さは100cm程度とすることが望ましいとされています。
この距離は、腕の長さだけから決めるものではありません。車椅子には座面の前方に足を載せる部分があり、利用者の身体の周りにも機器の幅があります。スイッチへ手が届くことに加え、車椅子全体が安全な位置に止まれることが必要です。開閉操作、出入り、方向転換を一連の動作として考えます。
他の選択肢は、育児をする人の多様性、身体条件に応じた家具配置、視覚的に分かりやすい段差という異なる配慮です。設備を設置した事実だけでなく、誰がどの位置から操作し、何を手掛かりに動くかまで検討する点が共通しています。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)不適当です。便房内の開閉スイッチは、車椅子が完全に中へ入ってから操作できる位置とします。戸先へ近づけすぎると、操作のために出入口付近へ戻り、車椅子や身体が戸の動きと干渉しやすくなります。設計標準では戸から70cm以上離すことが望ましいとされています。近いほど親切という考えでなく、手の届く範囲と車椅子全体の停止位置を一緒に確認します。押しやすさ、表示、非常時の対応も必要です。
選択肢2
(2)適当です。授乳やおむつ替えに関わるのは母親だけではなく、父親等の保護者もいます。男女ともアクセスしやすい位置に共用部分を設ければ、育児をする人が利用しやすくなります。そのうえで、授乳する人が中から施錠できる個室を用意し、身体や行為のプライバシーを守ります。誰でも通る場所へ授乳の席を露出するという意味ではありません。共に利用できる部分と、本人が安心して一人で使える部分を分けて計画します。
選択肢3
(3)適当です。車椅子からベッドへ移る方向や、介助者が立つ位置は利用者によって違います。ベッドやキャビネットを床に固定しないことで、必要に応じて通路やベッド脇の空間を調整できます。ただし可動式なら何でもよいわけではなく、使用時に意図せず動かない安定性も必要です。家具の向きを変えた後も、扉、照明スイッチ、緊急通報装置等へ手が届くかを確認し、客室全体で使いやすさを確保します。
選択肢4
(4)適当です。段鼻は踏面の先端で、踏面は足を載せる水平な面です。両者の明度差を大きくすると、視力が低下した人にも段の境界を見分けやすくなります。全段で配色を統一すれば、途中だけ違う色を段差や障害物と誤認することを抑えられます。明度は色相の違いではなく明るさの違いなので、赤と緑など色名が違っても明暗が近ければ十分とは限りません。照明や反射も含めて境界の見え方を確認します。
周辺知識
バリアフリーの計画は、身体の平均寸法に設備を合わせるだけではありません。同じ車椅子使用者でも、上半身の動かし方、移乗する方向、介助の有無、車椅子の種類が異なります。可動家具で空間を調整できることや、複数の使い方を選べることは、こうした違いに対応する方法です。固定された設備については、操作までの動作を具体的に検討します。
便所の出入口では「近づく、戸を開ける、中へ入る、戸を閉める、施錠する、便器へ移る」という順番があります。一つ一つの設備が届く場所にあっても、途中で方向転換できなければ使いにくくなります。自動戸のスイッチ位置は、この連続した動作の中で考える例です。
見え方への配慮も、装飾の色数を増やすこととは異なります。段の境界、扉の位置、案内を一貫した明暗差で示せば、利用者が予測しやすくなります。育児空間では、利用できる人を広げる配慮と、本人が守りたいプライバシーの両方が必要です。利用者を一種類に決めつけず、選べる条件と迷わず動ける条件を整えます。