学科Ⅱ(環境・設備)
一級建築士 令和5年度 学科Ⅱ(環境・設備) 問9
問題・正答・学習用解説
問題
吸音・遮音に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
正解は(3)です。生垣や並木には景観を整えたり、騒音源を直接見えなくしたりする効果がありますが、普通の植栽の幅や密度では、騒音を物理的に大きく減らす効果は期待しにくくなります。枝葉の間には隙間があり、音が通り抜けます。特に波長の長い低い音は障害物を回り込みやすいため、見た目に緑で覆われていても強い遮音壁と同じにはなりません。
学校の周囲に木を植えたとき、道路が見えなくなって落ち着くという心理的な改善と、騒音計で測る音のエネルギーが大幅に減ることは区別します。本肢は「大きな物理的効果が得られる」と断定している点が不適当です。十分な幅をもつ森林帯などで一定の減衰が生じることまで否定するものではありません。
大きな遮音効果が必要な場合は、音源との距離、建物の配置、隙間のない遮音壁、窓の遮音性能など、音の経路に応じた対策を検討します。植栽はそれらと組み合わせる環境整備として有用ですが、必要な遮音性能を単独で保証する手段と考えないことが要点です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)適当です。音響透過率は、壁へ入射した音のエネルギーのうち反対側へ通る割合です。透過損失はで表すため、透過率をにするとだけ増えます。例えば0.1なら10dB、0.01なら20dBです。透過損失が大きいほど通る音が少ないので、名称の「損失」は壁の性能が悪いという意味ではありません。
選択肢2
(2)適当です。空港のような大空間で反射音が長く残ると、放送の前の音節が次の音節へ重なり、言葉を聞き分けにくくなります。天井や壁で吸音して残響を抑えると、直接届く声が分かりやすくなります。音量を上げるだけでは反射音も増えるため、必ずしも改善しません。吸音は外からの騒音を壁で遮ることとは別に、室内で跳ね返る音を減らす対策だと理解します。
選択肢3
(3)不適当です。一般的な生垣や並木は、音に対して隙間のない重い壁にはならず、通常は大きな騒音減衰を得られません。道路が見えなくなって心理的に気になりにくくなることと、物理的な音量低下は別です。特に低い音は枝葉を回り込みやすくなります。学校の静かな環境を確保するには、教室の配置や開口部、遮音壁なども検討し、植栽だけで必要な性能を満たすと決めないようにします。
選択肢4
(4)適当です。多孔質材料は、小さな隙間の中で空気が振動するときの摩擦などで音のエネルギーを熱へ変えます。薄い材料は高い音に効きやすく、厚くすると低い周波数にも効果が及びやすくなります。剛壁に密着する条件では、壁面で空気の振動速度が小さいことも関係します。厚さを増やすことで壁から離れた位置の空気の動きを捉えやすくなり、低音域の吸音が改善します。
周辺知識
吸音と遮音は、同じ「音を小さくする」対策でも目的が違います。吸音は室内の反射音を減らすこと、遮音は隣室や屋外との間を音が通りにくくすることです。柔らかく軽い吸音材を壁に貼って残響が減っても、隣の部屋へ通る音が十分減るとは限りません。逆に、重く硬い壁は遮音に優れていても、室内側では音をよく反射する場合があります。
音の波長はで、音速を約とすれば、100Hzでは約3.4m、1000Hzでは約0.34mです。低い音ほど大きな尺度の波となるため、小さな隙間や障害物に対する振る舞いが高い音とは変わります。植栽の見た目の密度だけで遮音を判断できない理由にもつながります。
透過損失のdBは対数であり、10dBの改善は透過エネルギーを10分の1にする大きな変化です。ただし、人が感じる音量が単純に10分の1になるという意味ではありません。物理的なエネルギー比と、主観的なうるささの両方を区別して扱います。