学科Ⅴ(施工)
一級建築士 令和5年度 学科Ⅴ(施工) 問22
問題・正答・学習用解説
問題
鉄筋コンクリート造の建築物の耐震改修工事に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
最も不適当なのは選択肢3です。ハンマードリルは、回転に打撃を加えてコンクリートへ孔をあける機械なので、騒音や振動が生じます。騒音・振動対策が必要だからこの機械を採用した、という理由付けが適切ではありません。ダイヤモンドコアドリルなど、低騒音・低振動の方法を検討します。
穿孔とは孔をあける作業です。ハンマードリルは先端で打ち砕きながら進むのに対し、ダイヤモンドコアドリルは硬い刃を回転させて切削します。建物を使いながら改修する場合や近隣への影響を抑える場合には、この作業方式の違いが重要になります。
ただし、静かな機械を選べばアンカーの施工条件をすべて満たすわけではありません。穿孔方法によって孔壁の粗さや水分の状態が変わるため、アンカーの種類に適合する方法、孔内の清掃や必要な処理も確認します。耐震改修では、新しい部材を既存躯体へ確実につなぐ必要があります。施工環境への配慮と、接合部が必要な力を伝えられる品質の両方を満たす方法を選びます。
各選択肢の解説
選択肢1
選択肢1:耐震スリットは、柱と壁を所定の隙間で切り離し、壁が柱の変形を過度に拘束することを防ぐものです。本肢の30mmのスリットに耐火性能を持つ材料を挿入し、内外二箇所をシーリングする対応は適当です。構造上は隙間が必要でも、外壁としては火や水を通しにくくする必要があります。硬い材料で隙間を埋め直すと、切り離す目的を失うおそれがあるため、動きに対応した所定の材料を用います。幅は設計条件に従うもので、すべての建物で30mmとする意味ではありません。
選択肢2
選択肢2:接着系アンカーは、孔内の接着剤を介して鉄筋などをコンクリートへ固定します。埋込み時に接着剤が表面まであふれなければ、必要量が行き渡っていない可能性があります。本肢のように直ちに引き抜いてカプセルを追加し、所定の状態にやり直す対応は適当です。硬化してから表面だけへ材料を足しても、孔の奥の不足を補ったことにはなりません。製品に定められた手順と作業可能な時間内で処置し、所定深さまで確実に埋め込み、硬化中は動かさないようにします。
選択肢3
選択肢3:打撃を加えるハンマードリルを、騒音・振動を抑える目的で選ぶ点が不適当です。コアドリルなどを検討しますが、アンカーの性能評価で認められた穿孔方法や孔壁処理に合わせる必要があります。コア穿孔は孔壁が滑らかになることもあり、打撃穿孔と同じ条件とは限りません。施工しやすさや静かさだけで方法を変更せず、必要な定着性能が確保できることを確認します。「周囲への影響を減らす」と「設計した力を伝える」という二つの要求を両立させます。
選択肢4
選択肢4:既存梁の下端と増設壁の上端の隙間には、グラウトを充填して力を伝えられる状態にします。空気抜きを梁下端に設け、その位置より約10cm高くした管の先端から材料があふれることを確認する本肢の方法は適当です。空気が逃げなければ、材料を入れても上部に空洞が残るおそれがあります。少し高い出口であふれを確認することで、上端まで充填された状態を確かめます。注入した量だけでなく、空気の出口と材料の到達を観察することが必要です。
周辺知識
耐震改修には、壁などを増やして抵抗力を高める方法と、既存の壁を柱から切り離して望ましくない拘束を減らす方法があります。柱の途中まで壁が接すると、柱の自由に変形できる長さが短くなり、局部的に大きな力を受ける場合があります。スリットは、単に建物へ切れ目を入れるのではなく、その力の流れを調整する工事です。
増設壁では、既存躯体との接合部が重要です。アンカーは新旧のコンクリートの間で力を伝え、梁下のグラウトは隙間を埋めて接触を確実にします。新しい壁だけが丈夫でも、接合や充填が不足すれば建物全体へ十分に働きません。孔の清掃、接着剤の量、空気抜きなどの細かな施工が構造性能につながります。
改修は建物を使いながら行うこともあるため、音、振動、粉じん、水などへの対策が必要です。施工環境に適した方法を選びつつ、材料やアンカーが指定する条件も守ります。どちらかを優先してもう一方を無視するのではなく、工法と手順を組み合わせて両立させることが施工計画の役割です。