学科Ⅴ(施工)
一級建築士 令和4年度 学科Ⅴ(施工) 問14
問題・正答・学習用解説
問題
鉄骨工事における溶接に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(4)
正答の考え方
最も不適当なのは選択肢4です。溶接部の割れを局部的に補修する場合、適切な試験で割れの範囲を明らかにし、割れに加えて、その両端から50mm以上の範囲を除去します。本肢の20mm程度では不足です。除去部分を再溶接しやすい舟底形に整えること自体ではなく、割れの先まで除く長さが誤っています。
割れは表面で見える線の先にも続いている可能性があります。見た目の端だけで切り止めると、不良部分を残したまま新しい溶接をかぶせることになりかねません。原則として割れのある溶接金属を全長除去し、範囲を適切に確認できた場合に、端から十分に広げた局部補修を行います。
補修では、残す健全な鋼材を傷めず、不良部分を確実に除去し、必要な予熱などの施工条件を整えて再溶接します。その後の再検査まで含めて品質を確認します。「表面の線を埋めれば直る」という処置ではありません。他の肢は、水素による割れを抑える材料選定、溶接に支障のない付着物の扱い、所定範囲の板厚差を滑らかにつなぐ形状管理を述べています。
各選択肢の解説
選択肢1
選択肢1:厚さ25mm以上の400級軟鋼の組立溶接を被覆アーク溶接で行う場合、低水素系溶接棒を使う本肢の対応は適当です。溶接部へ入った水素は、冷却後の割れの原因の一つになります。厚い鋼材は熱が逃げやすく、拘束の影響もあるため、材料と施工条件に応じた対策が必要です。低水素系の棒を選んだだけで水分管理が不要になるわけではありません。溶接棒の乾燥・保管や必要な予熱なども含めて、水素と急冷の影響を抑えます。
選択肢2
選択肢2:固着したミルスケールがあっても、溶接に支障とならない条件では除去しない本肢の扱いは適当です。ミルスケールは鋼材製造時の酸化皮膜です。水分や油、浮いたさびなど有害な付着物まで残してよいという意味ではありません。また、高力ボルト摩擦接合面では、所定の摩擦性能を得るために除去する扱いがあり、溶接面の本肢とは目的が違います。同じ表面の皮膜でも、溶接する面か摩擦で力を伝える面かを確認して、必要な処理を判断します。
選択肢3
選択肢3:板厚差による段違いが薄板厚の4分の1以下で、かつ10mm以下なら、薄い部材から厚い部材へ溶接表面を滑らかにつなぐ本肢の方法は適当です。例えば薄板20mmで段差4mmなら、4分の1の5mm以下と10mm以下の両方を満たします。急な形状変化を避け、接合部で力が不自然に集中しない形をつくります。大きな段差の場合や疲労を受ける部位の別条件と混同しません。段差の大きさと適用範囲を確認してから、必要な溶接形状を選びます。
選択肢4
選択肢4:割れの範囲を確認した局部補修では、割れの両端からさらに50mm以上の範囲を除去するため、本肢の20mm程度は不適当です。例えば割れが40mmの長さなら、長手方向には両側50mmずつを加え、少なくとも140mmに相当する範囲を考えます。実際には深さや広がりも確認します。舟底形に仕上げるのは、急な切欠きを避けて再溶接しやすくするためです。滑らかな形に削っても除去範囲が不足していれば、不良を残すことになる点に注意します。
周辺知識
溶接の割れには、材料、水素、冷却の速さ、周囲の拘束など複数の要因が関係します。補修で表面をきれいにしても原因を残せば、再び割れるおそれがあります。割れの位置と範囲を確認し、適切な材料、予熱、溶接手順などを選ぶ必要があります。
表面処理の目的も施工方法によって異なります。摩擦接合面では滑りにくい接触面をつくり、溶接面では溶込みや健全な溶接金属の形成を妨げるものを除きます。「黒皮は常に残す」「どの面でも同じ処理」と一律に覚えるのではなく、そこで力をどう伝えるかを考えます。
数値の条件では、両端からの除去長さを一方だけ加えないことや、板厚差の二つの上限を両方満たすことに注意します。補修は不良を除去し、再施工し、再検査する一連の工程です。目に見える欠陥を隠す作業ではなく、接合部が本来持つべき性能を回復したことまで確認するものとして理解しましょう。