学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和3年度 学科Ⅳ(構造) 問29
問題・正答・学習用解説
問題
鋼材に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
SN490Bの490を降伏点の下限値とした記述が誤りです。490は引張強さの下限の区分を表します。引張強さは引張試験で記録する最大の応力度、降伏点は永久変形が大きく増え始める応力度で、同じ数値ではありません。
SN490Bでは、板厚に応じて降伏点又は耐力の範囲を定め、降伏比の上限、引張強さ、伸び、シャルピー吸収エネルギーなども規定します。例えば以下の一般的な対象板厚範囲では、降伏点の下限はであり、490ではありません。を超える場合には通常材の基準強度等の区分が変わることがあるため、材種と厚さを合わせて確認します。
高い引張強さがあっても、どの応力度で降伏するかが不明では、地震時に梁を先に降伏させる等の計画を正しく行えません。降伏点の上限や降伏比を管理するのは、部材の降伏後の余裕や、接合部が受ける力の大きさにも関わるためです。一方TMCP鋼は温度と加工を制御して組織を調整し、所定の厚さ範囲で厚板でも基準強度を維持する性能を実現します。鋼材記号の数字、降伏点、引張強さ、厚さの条件を分けて読みます。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)炭素量を増すと鋼材は一般に強く硬くなる一方、粘り強く変形する性質や溶接性は低下する方向です。溶接時の急熱・急冷によって硬い組織が生じやすくなり、割れへの配慮も必要になります。記述は適切です。強度を増せば全ての性能が改善するのではありません。構造用鋼材では炭素だけでなく他の合金元素と製造条件を調整し、必要な強度、靱性、溶接性を同時に確保します。用途に応じた材料選定が必要です。
選択肢2
(2)圧延鋼板では、組織や介在物が板面に沿って伸ばされることなどにより、板厚方向の性能が板面内の方向より劣る傾向があります。そのため記述は適切です。板厚方向の引張りが問題になるダイアフラム等では、厚さ方向の絞りなどを保証した材料を使い、層状の割れを防ぎます。どの鋼材も一律の比率で弱いという意味ではありませんが、面内の強度試験値だけで全方向が同じと仮定せず、力の作用方向を確認する必要があります。
選択肢3
(3)490は降伏点の下限ではなく、引張強さの下限の区分です。降伏点はそれより低く、板厚等に応じた値が規定されます。降伏比の上限や引張強さの下限を規定するという後半だけを見て正しいと判断してはいけません。SN400とSN490の数字を、柱や梁が弾性のまま使える応力度へ直接置き換えると設計値を過大にします。基準強度、許容応力度、降伏点、引張強さがそれぞれ何を意味するかを区別します。
選択肢4
(4)建築構造用TMCP鋼は、化学成分の調整と、圧延温度・冷却等の制御で組織をつくり、所定の製品では板厚超以下でも以下と同じ基準強度を保証します。従って記述は適切です。厚くなったから自動的に通常材と同じ低減を行うのではなく、製品の保証と認定の条件を確認します。ただしTMCPという名称だけで全製品・全厚さが同じ性能ではありません。対象の強度区分と適用板厚を対応させる必要があります。
周辺知識
鋼材の応力―ひずみ関係では、初めは荷重を除くと元へ戻る弾性変形、降伏後は永久変形が残る塑性変形が現れます。その後に達する最大応力度が引張強さです。降伏点と引張強さの間にどれだけ余裕があるかは、降伏比などで評価します。
強度は大きな力へ耐える性質、靱性は急に割れずエネルギーを吸収する性質、溶接性は所要の品質で接合しやすい性質です。炭素を増やすと強度・硬度は上がっても、他の性能が不利になることがあります。TMCPは加工と温度履歴を制御して組織を整え、材料の複数の性能を両立させる製造技術です。
厚い鋼板では内部まで均一な性質を確保することや、板厚方向の力に耐えることが重要になります。接合部で鋼板の表裏を引き離す力があるなら、その方向の性能も確認します。材料の名称の数字だけでなく、種別、厚さ、強度の保証範囲、靱性、厚さ方向特性を読み、部材と接合部が要求する性能へ合わせます。