学科Ⅰ(計画)
一級建築士 令和3年度 学科Ⅰ(計画) 問17
問題・正答・学習用解説
問題
歴史的建築物の改修や保存に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
最も不適当なのは選択肢1です。倉敷アイビースクエアは、明治22年、1889年に操業を始めた倉敷紡績の工場を再生した、ホテルや文化施設等を含む複合施設です。明治初期の工場を、中央にガラス屋根のアトリウムを持つ商業施設へ改修したという説明は適切ではありません。
この事例で特徴的なのは、工場の赤れんがの壁や建物を生かし、空に開いた中庭と組み合わせていることです。アトリウムは一般に建物内部などの大きな吹抜け空間を指し、本肢のガラス屋根に覆われた中央空間と、アイビースクエアの屋外の中庭は同じではありません。用途だけでなく、屋根があるか、人がどのように滞在するかも区別します。
他の肢は、工場倉庫を芸術活動の場へ、銀行建築を美術館の中へ包み込む形で保存、既存の劇場を保存と更新を組み合わせて機能向上させる事例です。既存建築の活用は、どれも同じ改修方法ではありません。元の用途、残す範囲、新設部分との関係、改修後に必要な機能を照らし合わせることで、各事例の違いが分かります。
各選択肢の解説
選択肢1
選択肢1:倉敷アイビースクエアをガラス屋根のアトリウム中心の商業施設と説明した点が不適当です。1889年に操業した紡績工場を再生し、ホテル等を含む施設として赤れんが建築と屋外の中庭を生かしています。明治22年は明治初期という説明とも合いません。工場を別用途へ再生したという大枠だけなら似た事例は多いため、正否を決めるには年代、主な用途、中央の空間が屋外か屋内かまで読む必要があります。アイビーは壁面の蔦とも結び付く名前です。
選択肢2
選択肢2:金沢市民芸術村の説明は適当です。紡績工場の倉庫を、創作活動のための工房等として再利用した芸術文化施設です。倉庫は元々物を置く大きな空間ですが、そのまとまった広さを活動や制作の場所へ読み替えています。作品を完成後に展示するだけでなく、市民がつくる過程にも場所を提供する点が重要です。レストランや開かれた空間も組み合わせ、制作目的の人に限らず地域の人が訪れやすい環境にしています。既存空間と活動内容の対応を確認します。
選択肢3
選択肢3:千葉市美術館の鞘堂による保存の説明は適当です。古い銀行建築全体を、新しくつくる建物の内部へ包み込むように残す方法です。鞘は中のものを覆って保護する外側の入れ物という意味で、外壁の一面だけを切り取って残す保存とは異なります。元の建築の空間や外観を内部に保ちながら、その周囲や上部等に新しい機能を組み合わせます。ただし、単に覆えばよいのではなく、新旧の構造や環境の扱いを整理し、保存部分の価値を損なわない設計が必要です。
選択肢4
選択肢4:ロームシアター京都の説明は適当です。旧京都会館の建築的な特徴を継承しながら、増築や一部の建替えで劇場としての機能を更新しています。劇場では客席だけでなく、舞台の大きさ、舞台装置、搬入、楽屋なども現代の公演に対応する必要があります。既存の外観や意匠を残すことと、必要な機能を改善することを調整した事例です。全部をそのまま使う保存と、全部を取り壊す建替えの二択ではなく、部位ごとに継承と更新の範囲を考えます。
周辺知識
既存建築の再生では、まず建物の価値と使える特徴を読み取ります。工場や倉庫の大空間、銀行の特徴的な室内、劇場の街との関係などは、新たな用途でも生かせる可能性があります。古いという理由だけで全てが同じ価値を持つのではなく、具体的な特徴を調べます。
保存の方法には、同じ用途で使い続ける、用途を変える、一部を残して増築する、別の建物で包み込むなどがあります。どの方法でも、構造や設備、避難、維持管理と新用途の要求を調整します。保存範囲を広くするほど無条件に良いというわけでもありません。
中庭とアトリウムの違いも、使い方に影響します。屋外の中庭では風や雨、季節を直接感じ、ガラス屋根のある空間では天候を避けられる一方、日射や暑さへの対応が必要です。名前の暗記に加え、平面、断面、材料、活動を結び付けると、事例の説明の取り違えを見抜きやすくなります。