学科Ⅰ(計画)
一級建築士 令和3年度 学科Ⅰ(計画) 問6
問題・正答・学習用解説
問題
人間のまわりの空間や距離等に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(2)
正答の考え方
最も不適当なのは選択肢2です。個人の身体について移動する、他人に入り込まれると落ち着かなくなるような空間は、ソマーが扱ったパーソナルスペースです。テリトリーという名称に置き換えている点が誤りです。テリトリーは、自分や集団の領域として認識し、利用・管理する場所を意味します。
例えば、空いている電車で知らない人がすぐ隣へ座ると近過ぎると感じることがあります。この身体の周りで保ちたい距離は、その人が移動すれば一緒に移動します。一方、自宅の庭や教室の自分たちの場所は、そこから離れても場所として残ります。この違いがパーソナルスペースとテリトリーを分ける手掛かりです。
パーソナルスペースは身体を中心とする完全な球ではなく、正面か横か、相手との関係、文化や状況によって変わります。他の肢では、ホールは対人距離とコミュニケーション、メルテンスは建物の高さと見る距離、ニューマンは住民が見守りやすい環境を扱っています。全て空間に関する理論ですが、距離の心理、視覚的な尺度、領域と安全という対象を分けて整理します。
各選択肢の解説
選択肢1
選択肢1:対人距離をコミュニケーションと対応させ、四つの距離帯に分類するホールの説明は適当です。親密な関係で使う密接距離、友人等との個体距離、仕事上のやり取り等の社会距離、多人数へ話す公衆距離という整理です。声の大きさ、視線、身体接触の可否などが距離と関係します。例えば受付で相談する距離と講堂で講演を聞く距離は異なります。ただし、全ての人が同じ距離を好む絶対的な規則ではなく、関係や文化、状況の違いも考慮します。
選択肢2
選択肢2:身体について移動する空間をテリトリーと呼んだ点が不適当です。ここで説明しているのはパーソナルスペースです。前から知らない人が近づく場合と横に並ぶ場合では、許容しやすい距離が違うため、常に球形と考えられるものでもありません。テリトリーは、自分の部屋や集団が管理する場所など、特定の領域への認識と結び付きます。どちらも他者との関係に関わりますが、「身体に伴って動く範囲」か「場所として認識する領域」かを区別します。
選択肢3
選択肢3:建物高さと視点からの水平距離の比で見え方を整理するメルテンスの説明は適当です。同じ高さの建物も近くでは大きく見上げ、遠くでは周囲の風景と一緒に見えます。例えば高さと距離がほぼ同じなら、全体を見上げる角度は大きくなり、距離を増やすと角度は小さくなります。建物の高さだけでは圧迫感や見渡しやすさを判断できません。見る人がどこに立つかを含めた尺度として、広場の大きさや建物配置等を考える手掛かりになります。
選択肢4
選択肢4:ニューマンのディフェンシブルスペースの説明は適当です。住民が「自分たちの場所」と感じ、日常的に見守れる環境をつくる考え方です。塀や植栽等で公的な場所と住民の領域を分かりやすくし、死角を減らすことで、不審な行動へ気付きやすくします。高い壁で完全に囲えばよいという理論ではありません。見通しを失えばかえって人目が届かなくなることもあります。領域の分かりやすさと自然な見守りを組み合わせて計画することが重要です。
周辺知識
建築の寸法には、身体が通れる幅のような物理的条件と、他人との距離が近過ぎて不快と感じる心理的条件があります。通行できる最低幅を満たしても、待合室の座席が密集していれば落ち着けないことがあります。人の行動と感じ方を合わせて計画する必要があります。
パーソナルスペースは人の周り、テリトリーは場所に対する領域意識、ホールの距離帯は関係に応じたやり取りの距離という整理ができます。例えば共同住宅の共用廊下でも、玄関前に少し自分の領域を感じられる工夫と、すれ違う際に相手との距離を取れる幅は、別の問題として検討します。
安全のための領域づくりでは、境界を明確にすることと、閉鎖して人目をなくすことを区別します。住民が自然に使い、手入れし、見守れる場所は、管理者の分からない放置された空間とは異なります。空間の形、利用者の認識、日常行動のつながりを考えることで、防犯を設備だけの問題にせず理解できます。