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学科Ⅱ(環境・設備)

一級建築士 令和3年度 学科Ⅱ(環境・設備) 問5

問題・正答・学習用解説

問題

建築物における防火・防災に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    火災時に空気と分離した煙が平面方向に広がる速さは、避難における歩行速度にほぼ等しい。
  2. (2)
    劇場の防災計画において、階段を下りる速度は、一般に、0.6 m/秒で想定する。
  3. (3)
    超高層建築物や医療福祉施設では、災害時に一気に外部まで避難することが困難な場合が想定されるので、避難経路の途中又は途中階に一時的に滞留できる空間を確保することが望ましい。
  4. (4)
    居室内避難における歩行距離は、一般に、家具の配置にかかわらず、出口に最も遠い地点から出口までの直線距離とする。

正答と解説

正答:(4)

正答の考え方

正解は(4)です。避難の歩行距離は、室内の最も不利な地点から出口まで、実際に通れる経路に沿って考えます。家具や間仕切りを無視して直線を引くと、机や棚を突き抜ける経路となり、実際より短い距離を見積もってしまいます。「家具の配置にかかわらず」という本肢は不適当です。
例えば出口まで直線で10mでも、長い机を回り込む必要があれば、歩く距離は15mや20mになる場合があります。避難時間をt=lv\displaystyle t=\frac{l}{v}で考えると、距離l\displaystyle lを過小に見積もれば時間t\displaystyle tも短くなり、安全性を実際より高く評価してしまいます。通路幅が狭く人が集中すれば、距離と歩行速度以外に出口で待つ時間も加わります。
火災時は煙の広がりが歩行に近い速さになることもあり、避難に使える時間には限りがあります。正しい経路を確保し、物を置いてふさがないことが重要です。また、医療福祉施設などでは速く歩けない人もいるため、途中の安全な待避場所や介助の方法まで含めて計画します。平面図上の直線が短いことと、実際に安全に退出できることは同じではありません。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)適当です。空気と分離して天井付近を広がる煙の水平の速さは、一般に避難時の歩行速度と同程度の尺度で考えられます。そのため、煙が近くへ来てから歩き出せば十分余裕があるとはいえません。煙の速度は火災や空間の条件で変わり、人の歩行も混雑などで遅くなります。また、階段や竪穴を上へ進む煙は水平とは別の速さになるため、この説明を全方向へ同じ値で適用しないことが重要です。

選択肢2

(2)適当です。劇場の避難計画で階段を下りる速度を0.6 m/s\displaystyle 0.6\,\mathrm{m/s}とする想定は適当です。1分では0.6×60=36\displaystyle 0.6\times60=36 m進む速度に相当します。階段は平らな床より足元へ注意が必要で、集団での移動も考えるため、通常の平地歩行より遅い値を用います。これは全員の実測速度を保証する値ではなく、用途や方向に応じた計画上の想定です。個人が急いで走る速度を使わない理由も理解します。

選択肢3

(3)適当です。超高層建物では地上までの経路が長く、病院や福祉施設では移動に介助が必要な人もいます。一度に屋外へ出ることが難しい場合に備えて、途中階や経路上に一時的に安全を確保できる空間を設けることが望まれます。ただ広い場所があればよいのではなく、火や煙から守られ、後の避難や介助につながる計画が必要です。避難者の能力と建物の高さを踏まえた段階的な安全確保です。

選択肢4

(4)不適当です。歩行距離は家具や間仕切りを避けた実際の経路で考えます。出口から最も遠い場所を直線で結ぶだけでは、実際には通れない部分を含む場合があります。家具の配置を変えると通路や歩行距離も変わり、避難計画に影響します。部屋の壁や出口が同じでも安全性が変わり得る点が重要です。非常時だけ通路をつくるのではなく、通常の使用状態で必要な経路を確保しておく必要があります。

周辺知識

避難時間は、火災に気付いて避難を始めるまでの時間、出口へ歩く時間、出口や階段で待つ時間などから成ります。歩行距離が短くても、出口が狭ければ人が滞留する場合があります。反対に幅が十分でも、火災の発見や避難開始が遅れれば危険が増します。警報、経路、出口幅、避難者の特性を合わせて考える必要があります。
単純な歩行時間は、次の式で求められます。
歩行時間=\displaystyle \text{歩行時間}=距離速度
18mを0.6 m/s\displaystyle 0.6\,\mathrm{m/s}で進むなら30秒です。しかしこれは一定速度で歩ける場合の移動時間だけで、扉の操作や混雑、介助、避難開始の遅れを含みません。計算が何を含むかを明確にすることが大切です。
家具や物品は、経路を長くするだけでなく通路幅を狭め、転倒やつまずきの原因にもなります。利用開始時の計画と、その後の運用が一致しているか確認することが必要です。また、煙の中を無理に進ませないよう、区画や排煙で安全な経路を保ち、必要な場所には一時待避空間を設けます。人が実際にどう動けるかを平面図に重ねて考えることが、防災計画の基礎です。