資格ナビ一級建築士の演習へ

学科Ⅳ(構造)

一級建築士 令和2年度 学科Ⅳ(構造) 問24

問題・正答・学習用解説

問題

建築物の耐震設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    鉄筋コンクリート造建築物の設計用一次固有周期Tを、略算法でなく固有値解析等の精算によって求める場合には、建築物の振動特性はコンクリートにひび割れのない初期剛性を用い、かつ、基礎や基礎杭の変形はないものと仮定する。
  2. (2)
    構造特性係数Ds\displaystyle D_sは、一般に、架構の減衰が小さいほど小さくすることができる。
  3. (3)
    各階の保有水平耐力計算において、剛性率が0.6を下回る場合、又は、偏心率が0.15を上回る場合には、必要保有水平耐力の値を割増しする。
  4. (4)
    限界耐力計算において、塑性化の程度が大きいほど、一般に、安全限界時の各部材の減衰特性を表す係数を大きくすることができる。

正答と解説

正答:(2)

正答の考え方

減衰は、揺れのエネルギーが材料の変形や摩擦などによって失われ、振動が弱まる性質です。構造特性係数Ds\displaystyle D_sは、大地震時の変形能力やエネルギー吸収能力などを踏まえて必要な水平耐力を評価する係数です。必要保有水平耐力の基本形は
Qun=DsFesQudQ_{un}=D_sF_{es}Q_{ud}
で、Fes\displaystyle F_{es}は剛性や偏りに関する割増し、Qud\displaystyle Q_{ud}は基準となる地震時の水平力です。
(2)は、減衰が小さいほどDs\displaystyle D_sを小さくできるとしており逆です。揺れのエネルギーを吸収しにくい架構で、必要な耐力まで小さくしてしまうと、耐震上の余裕を両方減らすことになります。一般には減衰や塑性変形能力が大きく、エネルギーを吸収できる構造の方が、小さいDs\displaystyle D_sを採れる方向です。
ただしDs\displaystyle D_sは、単に減衰だけを測って自由に決める値ではありません。構造形式や部材の種別、筋かい等の負担など、定められた条件に従って設定します。また限界耐力計算の「減衰特性を表す係数」は、減衰が大きいほど大きくなる量です。同じ減衰に関わる係数でも、式の中の役割により大小の向きが違います。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)ここでいう周期T\displaystyle Tは、法令の地震力算定などに用いる設計用一次固有周期です。精算するときも、コンクリートにひび割れがない初期剛性を用い、基礎や杭の変形を含めない条件にそろえて求めます。記述は適切です。実際の大地震中にはひび割れや地盤の変形で周期が変わることがありますが、その応答を調べる解析と、この設計用周期の定義を混同しないようにします。

選択肢2

(2)減衰が小さいほどDs\displaystyle D_sを小さくする、という関係は逆です。Ds\displaystyle D_sを小さくすると、他の条件が同じなら要求される保有水平耐力も小さくなります。それが認められるのは、部材が粘り強く変形し、地震のエネルギーを吸収できるなどの裏付けがある場合です。エネルギーが失われにくい架構には、より大きい強さを要求する方向になります。係数が何を増減させるかを式から確認します。

選択肢3

(3)剛性率が小さい階は他の階より変形が集中しやすく、偏心率が大きい階は質量と抵抗の配置のずれによってねじれやすくなります。剛性率0.6未満、又は偏心率0.15超では、必要保有水平耐力を割り増す記述は適切です。二つを両方満たしたときだけではなく、どちらかが該当すれば関係する割増しを考えます。力が不均等に集中する不利を、必要な耐力側へ反映する扱いです。

選択肢4

(4)限界耐力計算では、部材が塑性化して繰り返し変形する際のエネルギー吸収を減衰として評価します。一般に塑性化の程度が大きくなると、安全限界時の各部材の減衰特性を表す係数も大きくできます。記述は適切です。ただし、急激に壊れて力を失う部材まで、大きく変形したから減衰に有利と扱うのではありません。採用する部材の履歴特性や適用条件に従った評価が必要です。

周辺知識

一回押して離した振り子は、何もしなくても少しずつ揺れが小さくなります。これは空気抵抗や摩擦でエネルギーが失われるためです。建物では材料の内部の抵抗のほか、降伏した鋼材などを繰り返し変形させるときにもエネルギーが吸収されます。力と変形の関係を往復で描いたとき、その囲む面積が一往復で失われるエネルギーに対応します。
ただし、建物の一か所だけへ変形が集中すると、その場所が先に限界へ達します。そのため全体として十分な強さがあっても、極端に柔らかい階や、ねじれが大きい配置には追加の確認が必要です。剛性率や偏心率は、この変形の偏りを把握する指標です。
「一次固有周期」は最も基本的な揺れ方の一往復にかかる時間です。実際には損傷で柔らかくなると長くなり、基礎の動きも影響します。一方、規定の地震力を決めるための周期は、共通の条件で定義されます。現象としての周期と、設計手順で採用する周期の前提を分けると、(1)と塑性化の話が矛盾しないことが分かります。