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学科Ⅳ(構造)

一級建築士 令和2年度 学科Ⅳ(構造) 問16

問題・正答・学習用解説

問題

鉄骨構造において使用する高力ボルトに関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    山形鋼を用いた筋かいを、材軸方向に配置された一列の高力ボルトによりガセットプレートに接合する場合、筋かい材の有効断面積は、一般に、高力ボルトの本数が多くなるほど大きくなる。
  2. (2)
    高力ボルト摩擦接合部において、一般に、すべり耐力以下の繰り返し応力であれば、ボルト張力の低下や摩擦面の状態の変化を考慮する必要はない。
  3. (3)
    高力ボルト摩擦接合は、すべりが生じるまでは、高力ボルトにせん断力は生じない。
  4. (4)
    高力ボルト摩擦接合のすべりに対する許容耐力の算定において、二面摩擦接合のすべり係数は、一面摩擦接合の2倍となる。

正答と解説

正答:(4)

正答の考え方

高力ボルト摩擦接合は、ボルトを強く引き伸ばすように締め、鋼板同士を押し付け、その接触面の摩擦で力を伝える接合です。すべり係数μ\displaystyle \muは、接触面がどの程度滑りにくいかを表す無次元の値です。面の粗さや表面処理に関係する性質で、摩擦面を何枚に増やすかとは別です。
(4)は二面接合ですべり係数が2倍になるとしており、不適切です。同じ処理の面なら係数は同じで、力を伝える有効な面数が2になります。基本的な仕組みをR=mμN\displaystyle R=m\mu Nと表すと、R\displaystyle Rはすべりに抵抗する力、m\displaystyle mは摩擦面数、N\displaystyle Nは締付けによる力です。例としてμ=0.4\displaystyle \mu=0.4、N=100 kN\displaystyle N=100\,\mathrm{kN}なら、一面は1×0.4×100=40 kN\displaystyle 1\times0.4\times100=40\,\mathrm{kN}、二面は80 kN\displaystyle 80\,\mathrm{kN}です。これは仕組みを示す例で、実際の許容耐力には規定の係数や条件を用います。
二面接合でμ\displaystyle \muを0.8に変え、さらに面数2も掛けると、同じ効果を二重に数えてしまいます。「面を滑りにくくすること」と「力を渡す面を増やすこと」を別々に考えるのが正しい理解です。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)山形鋼はL字形の断面です。片方の板部分だけをガセットプレートへボルトで留めると、直接つながらない突出部分には力が一様に伝わりにくくなります。材軸方向のボルト本数が増え、力を渡す接合長が長くなると、その突出部分も働きやすくなり、有効断面積を大きく評価できます。本数に比例して無制限に増えるわけではありません。ボルト孔を除いた断面など、別の上限もあります。

選択肢2

(2)すべり耐力以下の繰返しなら、通常は摩擦面が相対的に動かず、初めの締付けによる接合の働きが維持されるものとして扱えます。このため記述の条件では、繰返しによるボルト張力低下や摩擦面の変化を一般に考慮しません。施工不良や腐食、過大なすべりまで無視する意味ではありません。適切な摩擦面処理と締付けが確保され、指定された範囲の力であることが前提です。

選択肢3

(3)滑る前は、重ねた鋼板の接触面に働く摩擦が面内の力を伝えます。ボルトは鋼板を押し付けるための軸方向の引張力を受けていますが、孔の縁に押されて軸を横に切るようなせん断力を伝える段階ではありません。したがって記述は適切です。「ボルトに力がない」のではなく、「締付けの引張力はあるが、接合のせん断力は摩擦で伝える」と区別すると理解できます。

選択肢4

(4)二面になるのは、ボルトで締めた接合部の中で力を伝える摩擦面の数です。すべり係数は各面の状態で決まり、同じ表面処理なら一面でも二面でも変わりません。耐力を計算する式には面数と係数をそれぞれ入れます。二面の耐力が一面の2倍になる基本関係を、係数自体が2倍と取り違えています。実際には同じ締付け力が各有効面に働くなど、接合形状の条件も確認します。

周辺知識

摩擦接合と支圧接合を分けると、ボルトの働きが見えます。摩擦接合では、力は鋼板同士の接触面を通って伝わります。支圧で力を伝える段階では、孔の縁がボルトを押し、ボルト軸や孔の周囲が抵抗します。どちらも外見はボルト接合ですが、設計で想定する力の経路が違います。
摩擦接合の施工で接触面を管理するのは、目に見えるボルト本数だけではすべり耐力を決められないためです。油などで面の状態が変わると、同じ締付け力でも滑りやすさが変わります。一方、必要な張力が導入されていなければ、適切に粗くした面でも十分に押し付けられません。表面状態と締付けは両方必要です。
山形鋼の有効断面積は、摩擦面のすべり耐力とは別の確認です。接合部が滑らなくても、力を受け取った筋かいの断面が孔の位置で切れたり、接合していない脚に力が行き渡らなかったりすることがあります。接合部の安全性は、摩擦、ボルト、鋼板、筋かい本体の各段階を通して確認します。