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学科Ⅰ(計画)

一級建築士 令和2年度 学科Ⅰ(計画) 問11

問題・正答・学習用解説

問題

歴史的資産を活かしたまちづくりに関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    青森県黒石市では、中町の「こみせ」と呼ばれる降雪や日差しを避けて通れるようにした木造の軒下の歩廊が続く町並みを、伝統的建造物群保存地区に指定し、保存に取り組んでいる。
  2. (2)
    静岡県掛川市では、「生涯学習都市宣言」を行い、その一環として官民が協力し、地区計画を定めて掛川城の城下町としての歴史を活かした城下町風まちづくりを推進している。
  3. (3)
    岡山県倉敷市では、本瓦葺塗屋造りの町屋、土蔵造りの蔵、白漆喰になまこ塀が建ち並ぶ倉敷川畔を「美観地区」とし、景観の保全を図っている。
  4. (4)
    鹿児島県南九州市の知覧では、「パタン・ランゲージ」に範をとったまちづくり規範により、明治時代の大火からの復興によって形成された、蔵造りの歴史的町並み景観の保全が実践されている。

正答と解説

正答:(4)

正答の考え方

正解は4です。明治時代の大火後に蔵造りの町並みが形成され、パタン・ランゲージの考え方に基づく町づくり規範で景観の保全等を進めた事例は、埼玉県川越市の一番街に対応します。鹿児島県南九州市の知覧と取り違えています。
知覧の特徴は、武家屋敷群や庭園、道に沿って続く石垣・生け垣です。商家の蔵造りが並ぶ川越とは、歴史的な用途と通りの姿が異なります。『古い町並みを保存する場所』という大きな共通点だけで、建物の形や取組の内容を入れ替えてはいけません。
パタン・ランゲージは、よい空間に繰り返し見られる特徴や、それを実現する方法を、名前のある小さな原則として整理する考え方です。川越の町づくり規範では、地域に合う建て方や町並みへの配慮を共有し、具体的な建築行為の相談等に用います。古い外観をすべて同じ形へコピーすることだけが目的ではありません。地名、町並みをつくる建物や外構、保存・形成の仕組みを三つ組で理解することが、本問の事例を覚える方法です。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)適切です。黒石のこみせは、商家の軒下などに設ける木造の歩廊で、雪や日差しを避けながら通ることができます。建物一棟の庇だけでなく、通り沿いに連続することで地域の歩行空間を形成します。中町の町並みを伝統的建造物群保存地区として保存する取組と対応します。雪国の生活に役立つ空間が歴史的景観にもなっている例なので、形だけでなく気候と日常の使い方を結び付けて理解します。

選択肢2

(2)適切です。掛川では、生涯学習を通じたまちづくりの取組の中で、掛川城と城下町の歴史を生かす計画が進められました。地区計画などによって、城を背景とする町並みの形態や環境を調整します。行政だけが観光施設を整備するという話ではなく、民間の建物や土地利用も含めて街の姿を形成する取組です。城の復元という一点だけでなく、その周囲の道路や建物をどう連続させるかが重要です。

選択肢3

(3)適切です。倉敷川畔の美観地区は、白漆喰の町屋や土蔵、瓦屋根、なまこ壁などが特徴です。塗屋造りは木造の外側を塗り込める形式、土蔵は厚い土壁等をもつ蔵で、なまこ壁は瓦の目地を漆喰で盛り上げた意匠です。建物単体だけでなく川や柳などを含む町並みとして保全します。白い壁という見た目に加え、商業や物資の集散に関わる歴史が景観の背景にあります。

選択肢4

(4)不適当です。大火からの復興による蔵造りの町並みと、パタン・ランゲージを参考にした町づくり規範は川越の取組です。知覧は武家屋敷群、庭園、石垣や生け垣の連続を特徴とします。正しい地名へ直すだけでなく、川越は商家の通り、知覧は武家屋敷の町並みという生活の背景を比べると区別できます。歴史的資産という共通語でまとめず、保存する空間の具体的な姿を確かめることが大切です。

周辺知識

歴史を生かすまちづくりでは、有名な一棟を保存するだけでなく、道路、屋根や壁の連なり、庭や水路、日々の商いや暮らしとの関係を考えます。こみせは連続して初めて雪を避ける道となり、蔵造りの商家は通り沿いに並ぶことで町並みの特徴になります。個々の建物と周辺の空間を一体で扱うことが重要です。
伝統的建造物群保存地区は、歴史的な建造物の集まりと、その環境を保存する制度です。一方、地区計画は地区ごとの土地利用や建て方を定める都市計画の仕組みで、町づくり規範は地域が具体的な建築行為を調整するために共有する原則などを指します。同じ保存・形成の目的でも、使う仕組みは一つではありません。
パタン・ランゲージのように原則を言葉と事例で共有すると、建築の専門家だけでなく住民も話し合いに参加しやすくなります。歴史を生かすことは、生活を昔のまま止めることでも、古い装飾を新築へ一律に貼ることでもありません。地域の価値を理解し、現在の生活や安全、商業活動と両立する変更を積み重ねる取組として考えます。