学科Ⅱ(環境・設備)
一級建築士 令和2年度 学科Ⅱ(環境・設備) 問5
問題・正答・学習用解説
問題
建築物における防火・防災に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
正解は(1)です。安全区画は、火や煙にすぐさらされずに避難を続けるための場所です。そこに入った煙を排出する際は、これから人が向かう安全な出口や階段へ煙を引き寄せない計画が必要です。「人が進む先に排煙口を置けば、その先がきれいになる」と考えると、排煙口へ流れる途中の煙が避難経路を通ることを見落とします。
例えば廊下の右端に安全な階段があり、人が右へ逃げるなら、右端へ煙を集める配置では階段の入口に煙が流れ込みかねません。原則的な考え方は、避難方向と逆向きの煙の流れをつくり、避難者が向かう側を保護することです。実際には出火位置、給気口、扉の開閉、外風などによって煙の流れも変わるため、排煙口の方向だけで安全が保証されるわけではありません。
この問題では、排煙設備を単に「煙を外へ出す装置」として見るのではなく、どの場所の空気を、どの経路で外へ出すのかを考えます。避難計画と煙制御を一体で計画し、人の動線と煙の動線が危険な形で重ならないようにすることが核心です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)不適当です。避難方向に排煙口を置くと、煙がその口へ向かう途中で、避難者の進む先や階段の入口を汚染するおそれがあります。安全区画では避難方向と逆方向に煙を導くことを基本に、避難する側を煙から守ります。重要なのは排煙口そのものが出口付近にあるかだけではなく、室内にできる煙の流れです。換気扇に向かって調理の煙が移動するのと同様に、吸い出す位置は室内の通過経路にも影響します。
選択肢2
(2)適当です。防火区画ごとに人が避難扉へ集中する人数と扉の幅の関係が違いすぎると、ある区画だけが長い待ち時間を生じます。例えば同じ幅の扉でも、利用する人数が2倍なら一般に通過に必要な時間が増えます。階段配置は単に等間隔にするのではなく、各区画の避難時間と、扉幅当たりの人数がおおむね均等になるようにします。売場面積だけでなく、利用者の密度や出口までの距離も併せて考えます。
選択肢3
(3)適当です。自然排煙はファンではなく、高温の煙と周囲の空気の密度差による浮力を使います。煙の温度が低ければ密度差が小さく、煙層が薄ければ浮力による圧力差も小さくなるので、同じ開口でも排煙量は少なくなります。天井が低い空間では、人の頭上に確保できる煙層の厚さに余裕がありません。煙が低温だから無害なのではなく、浮力で排出しにくいことが避難上の弱点になる場合があります。
選択肢4
(4)適当です。水平避難は、同じ階の別の防火区画へ先に移る方法です。病院では歩けない患者をベッドごと階段へ運ぶのは難しく、全員を直ちに地上へ下ろすだけの計画では介助が追い付きません。そこで火と煙を区画で遮り、隣の保護された場所へ移して時間を確保し、その後に必要な介助避難を進めます。単に同じ階の隣室ならよいのではなく、区画の性能、収容余裕、扉幅や介助体制が必要です。
周辺知識
避難安全は、人が逃げ終わるまでに必要な時間と、煙などで避難が困難になるまでの時間の関係で考えます。火災に気付く時間、避難開始を判断する時間、歩く時間、出口で待つ時間を足したものより、空間が安全に使える時間を長く確保する必要があります。出口を近くに設けるのは前者を短くし、防火区画や排煙は後者を延ばす働きをします。
防火区画は火炎や熱の拡大を抑える区画、防煙区画は煙が天井付近に広がる範囲を抑える区画です。両者には関連がありますが、同じ働きとして扱えません。防火戸が開いたままなら、区画の性能を予定どおり発揮できないこともあります。
また病院、店舗、事務所では人の動き方が違います。店舗には避難経路を知らない来客が多く、病院では自力で歩けない人への支援が要ります。避難者をすべて同じ速さで歩ける人と仮定して出口の幅だけを計算しても十分ではありません。本問の階段配置、排煙、水平避難は、それぞれ人数の偏り、煙の流れ、利用者の身体状況に対応する計画です。