学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和7年度 学科Ⅳ(構造) 問20
問題・正答・学習用解説
問題
杭基礎に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
杭は建物を地中で支える長い部材ですが、地震時には横にも曲げられます。水平地盤反力係数は、杭が横へ変位したときに周りの土がどれだけ押し返すかを表す係数です。大きいほど地盤の横方向のばねが硬いと考えられます。したがって、同じ杭へ同じ水平力を加えるなら、が大きいほど杭頭の水平変位は小さくなり、選択肢3が逆です。
長い杭を均一な地盤中の弾性梁として扱う基本解では、地盤と杭の相対的な硬さを
で表します。Bは杭幅、EIは杭の曲げ剛性です。例えば杭頭の回転を止めた場合、水平力をHとすると杭頭変位は、杭頭モーメントの大きさはとなります。が大きければβが大きくなり、どちらも小さくなる関係が確認できます。
式が難しく見えるときも、まず「同じ力で押すなら、硬い支えほど動かない」という方向を押さえます。ただし、周りの地盤自体が大きく動いて杭へ変形を強制する場合は、硬い地盤が動かないという前提では評価できません。その影響まで扱う方法が選択肢4の応答変位法であり、荷重による変形と地盤からの強制変形を分けて考えます。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)弾性支承梁理論は、杭を曲がる梁、地盤を杭の各深さへ取り付けた横向きのばねとして表すモデルです。基本的な扱いでは、杭の変形へ影響する範囲の地盤をほぼ均一とし、地盤自身の大きな地震時変位が支配しないことが前提です。層ごとの硬さが大きく違う、液状化で性質が大きく変わる、地盤が横へ流れるといった状態を、単一の一定ばねでそのまま表すことはできません。計算式を使う前に、このモデル化が地盤条件に合うかを確認します。
選択肢2
(2)杭頭の回転を拘束した長い杭では、同じEI、B、水平力Hの下で、、の関係になります。地盤が強く押し返すほど、杭の横曲げが広がる地中の長さが短くなり、杭頭で必要な曲げモーメントの大きさは小さくなります。「硬い地盤なら杭の力は何でも大きい」とは限りません。本問は杭頭の水平力を同じにした比較であり、地盤の強制変位を同じにする比較とは条件が違います。
選択肢3
(3)地盤反力係数が大きいほど、同じ横変位に対して大きな押し返しが得られるので、同じ水平荷重の下では変位が小さくなります。例えば他の条件を保ちを16倍にするとβは2倍、回転拘束杭頭の変位は、次のとおりです。
具体的な倍率を覚えることよりも、係数が何の硬さを表すかを理解することが重要です。地盤が硬くなると「反力が大きい」ことを、杭が「大きく動く」ことと混同した記述です。
選択肢4
(4)地震では建物の慣性力が杭頭から伝わるだけでなく、周囲の地盤自体が動いて杭を横から曲げます。応答変位法は、その地盤変位を杭に与える作用として考慮し、杭の応力や変形を求める方法です。液状化しやすい軟弱地盤では地盤の剛性低下や変形が重要なので、このような検討が役立ちます。ただし、適用できるということは、地盤の変位や液状化後の性質を適当に設定してよい意味ではありません。想定する地震・地盤条件をモデルへ反映させます。
周辺知識
杭の水平抵抗は、杭そのものの曲がりにくさと周囲の土の押し返しの共同作用です。硬い杭を柔らかい土へ入れた場合と、柔らかい杭を硬い土へ入れた場合では、曲がり方や力の集中する深さが違います。βはその二つの相対関係をまとめた量で、単位は長さの逆数です。は、杭の横変形が地中のどの程度の深さへ広がるかを考える尺度になります。
「長い杭」は単に何以上という固定の長さだけを指すのではなく、杭先端の条件が杭頭付近の水平応答へあまり影響しない程度に、地盤との相対関係から十分長い場合です。短い杭では先端の回転や移動の条件も大きく効くため、長い杭の式をそのまま使えません。
杭頭を回転自由にするか拘束するかでも、地中のモーメント分布と杭頭変位が変わります。また、「同じ力で押す」と「同じ距離だけ地盤を動かす」は別の比較です。前者では硬い支えほど変位が減りますが、後者では強制された変形による力が問題になります。設計の大小関係では、一定にした条件を最初に書き出すと判断を誤りにくくなります。