学科Ⅴ(施工)
一級建築士 令和7年度 学科Ⅴ(施工) 問22
問題・正答・学習用解説
問題
鉄筋コンクリート造の建築物の耐震改修工事に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
選択肢1が不適当です。目荒しは既存コンクリートの表面を所定の程度に粗くし、新しい材料との付着や力の伝達をよくする処理です。主筋が露出する深さまで全面を削ることではありません。補強を加えるために、もともと荷重を支えている柱や梁を過度に傷めてしまう点が誤りです。
枠付き鉄骨ブレースは、斜材を組み込んだ鉄骨の枠を既存の柱・梁の内側へ取り付け、地震に抵抗する力を増やす補強方法です。既存躯体と新しい枠との間では、あと施工アンカーや充填材などを通じて力を伝えます。既存コンクリートの表面が滑らか過ぎたり弱い層が残ったりすると、一体に働きにくいため表面を処理します。
しかし柱・梁の表面を主筋まで大きく削れば、部材の断面が減り、鉄筋とコンクリートの付着や鉄筋の保護も損ないます。新しい補強がまだ働いていない途中で、既存部分を弱くする危険があります。必要な範囲と深さは設計や仕様に従い、弱い表面の除去、清掃、所定の粗さの確保を行います。「付着をよくする」という目的が正しくても、強く削るほど効果的という単純な関係にはなりません。
各選択肢の解説
選択肢1
選択肢1:不適当です。主筋が露出するほど全面を削ると、既存部材の健全なコンクリートまで失い、鉄筋周囲の付着や部材の耐力を損ねる恐れがあります。目荒しは、新しい材料と接する範囲の表面を所定の粗さにする作業です。電動ピックを使うこと自体が直ちに誤りなのではなく、削る程度が過大な点を判断します。既存柱や梁は補強工事中も建物を支えています。施工のための下地処理と、部材を大きく除去する解体を混同せず、指定された範囲と方法で進める必要があります。
選択肢2
選択肢2:適当です。コアドリルは円筒状の刃などでコンクリートへ孔をあける工具で、刃の冷却や切削粉の排出に水を使います。コンクリートのセメント成分はアルカリ性なので、その水にもアルカリ成分が混ざります。そのまま排水せず、中和して適切な水質に整える本肢は適当です。中和は酸性側の薬剤などで強いアルカリ性を調整する処理ですが、薬剤を入れた事実だけでは十分ではなく、pHを確認します。切削で出た固形物の処理も含め、排水先の条件に合う管理を行います。
選択肢3
選択肢3:適当です。あと施工アンカーは、既存コンクリートへ後から孔をあけて定着させる接合材です。増設壁の縁へ多数配置すると、そこから新しい壁へ集中して力が伝わり、コンクリートを押し広げる作用で割裂が生じる恐れがあります。スパイラル筋はらせん状に巻いた鉄筋で、その周辺を拘束して裂け広がりを抑えます。アンカー一本の強さだけでなく、複数のアンカーから力を受けるコンクリート側の状態を考える補強です。新しい壁が厚いというだけで、この局所的な確認を省けません。
選択肢4
選択肢4:適当です。上向き施工では、接着剤が十分に硬化するまでアンカー筋が自重で下へ抜け出す恐れがあります。くさびなどで脱落を防ぎ、24時間養生する本肢の取扱いは適当です。養生中は位置を保ち、振動や荷重を不用意に与えないことが大切です。ただし、実際に必要な硬化時間は樹脂の種類や温度などで変わるため、24時間という数字を全製品・全環境に共通の保証として使いません。出題の施工条件を理解したうえで、製造所の指定する時間と温度条件を守ります。
周辺知識
耐震改修は、新しい強い部材を追加するだけの作業ではありません。既存建物と補強部分が一体として力を受けるため、接合部を通じて力が確実に伝わることが必要です。鉄骨ブレースが丈夫でも、その周囲のアンカーや充填部分が弱ければ、期待する補強効果は得られません。
接合部では、既存側、接合材、新設側の三つを確認します。既存側には十分なコンクリートの状態と適切な表面処理、接合材には定着と硬化、新設側には割裂などを防ぐ補強が必要です。いずれか一つが強ければ全体も強い、という関係ではありません。鎖の一部分だけを太くしても、別の輪が弱ければ切れるのと似ています。
施工中の安全も完成後とは別に検討します。孔あけや目荒しで既存の断面を損ねないこと、上向きのアンカーを硬化まで落とさないこと、切削水を適切に処理することなどです。補強材が完全に働くまでの間も、建物は荷重を支えています。完成する形、力の受渡し、工事途中の状態を順に確認することが、耐震改修を理解する基本になります。