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学科Ⅰ(計画)

一級建築士 令和5年度 学科Ⅰ(計画) 問1

問題・正答・学習用解説

問題

建築士の行う設計業務等に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    建築士は、建築に係る専門家として、非専門家との間の知識や情報等の格差を埋める責任があり、アカウンタビリティ(専門家としての説明責任)の実践が求められる。
  2. (2)
    建築士は、本来、国家資格者にふさわしい国民の生命や財産を守る技術的資質や能力を自ら保持すべきとされ、同時に業務独占を賦与された資格者として高い倫理性を求められる。
  3. (3)
    プロジェクト達成にとってのリスク(不都合な情報)の積極的な共有による集団内での意思疎通をリスクコミュニケーションといい、その実践が特に重要である。
  4. (4)
    建築士が専門家として建築関連の法令を遵守する基本的な態度をコンプライアンスといい、遵守すべき対象は法令に限定されている。

正答と解説

正答:(4)

正答の考え方

正解は(4)です。コンプライアンスは法令を守ることを基本としますが、専門家として社会から信頼される行動という文脈では、職業倫理、社会規範、正当な契約上の約束なども含めて考えます。「遵守すべき対象は法令に限定される」とする部分が不適当です。法律の条文に直接禁止されていないことでも、相手を誤解させたり重要な情報を隠したりすれば、専門家への信頼を損ないます。
例えば、ある材料を使うと費用を抑えられる一方、将来の維持管理が難しくなると分かっている場面を考えましょう。建築主がその違いを知らないまま契約すれば、専門家と非専門家の情報の差が不利益につながります。そこで、利点だけでなく制約も理解できる言葉で説明し、関係者でリスクを共有して判断します。説明責任、技術力と倫理、リスクの共有は、全てこの信頼を支える行動です。ただし倫理や組織内の規則は、法令に違反する行動を正当化するものではありません。法令を土台として、それだけでは尽くせない専門家の責任を果たします。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)適当です。アカウンタビリティは、判断や行動について相手が理解できるように根拠を説明する責任です。建築士だけが専門用語を理解していても、建築主が費用や性能の違いを判断できなければ十分とはいえません。例えば断熱仕様を選ぶとき、名称だけでなく、初期費用、暑さ寒さ、運転費への影響を説明します。一方的に情報を渡して終わるのでなく、相手の疑問を確かめ、意思決定に必要な理解を支えることが重要です。

選択肢2

(2)適当です。建築士には、一定の建物の設計や工事監理を資格者が担うという業務独占が認められています。これは単に資格者の仕事を守るためではなく、利用者の生命や財産を保護するための制度です。したがって、必要な技術を学び続けることと、知識を不正な目的に使わない倫理の両方が必要です。資格試験に合格した時点の知識だけで十分と考えず、法令、材料、設計技術の変化に応じて能力を保ちます。

選択肢3

(3)適当です。リスクコミュニケーションは、問題が起こる可能性や、その影響について関係者が情報と考えを共有することです。例えば地盤条件に不確実さがあれば、設計者だけで抱え込まず、建築主や施工関係者へ影響を説明し、追加調査や予算への対応を考えます。不都合な情報を隠すと、後の段階で変更が大きくなりやすくなります。単なる警告の通知ではなく、分かっていることと不確かなことを分け、対策の判断につなげます。

選択肢4

(4)不適当です。法令遵守は欠かせませんが、コンプライアンスを法令だけに限定する説明は狭すぎます。建築士の仕事では、職業倫理や社会的な公正さ、契約上の責任も踏まえる必要があります。例えば、依頼者に重要な不利益を説明せず、専門知識の差を利用して有利な契約を結ぶ態度は適切ではありません。形式的に条文へ抵触しないかだけでなく、専門家として信頼に応える行動かを考えることが求められます。

周辺知識

建築士の責任は、建築主との関係だけでは終わりません。建物は、完成後に多くの利用者が使い、周辺の街並みや環境にも長く影響します。建築主が望んだという理由だけで、安全性や周辺への影響を無視することはできません。専門家は、依頼者の要望と社会的な責任を整理し、根拠のある選択肢を示す必要があります。
本問の三つの言葉は、行動の場面で区別できます。コンプライアンスは「守るべき基準に沿って行動すること」、アカウンタビリティは「判断の根拠を理解できるように説明すること」、リスクコミュニケーションは「不確実さや不利益の可能性を関係者で共有して考えること」です。いずれも、情報を持つ専門家が独断で決めてしまうのを防ぐ働きがあります。
説明では、数値や専門用語をたくさん示すことより、選択によって何が変わるかを伝えることが重要です。確実な事実と予測を分け、利点と制約を併せて示せば、建築主も自分の目的に合う判断ができます。分からないことを分からないと明らかにする姿勢も、専門性を支える一部です。