学科Ⅴ(施工)
一級建築士 令和5年度 学科Ⅴ(施工) 問13
問題・正答・学習用解説
問題
鉄骨工事における溶接に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
最も不適当なのは選択肢3です。柱梁接合部の裏当て金の組立溶接は、梁フランジの両端から10mm以内の位置には行いません。本肢の「両端から5mm以内」は、この避けるべき範囲の中に入っています。エンドタブの位置や梁フランジ幅の4分の1の位置など、接合部に悪影響を与えない所定の位置で固定します。
梁のフランジは、H形断面の上下に広がった板部分です。梁が曲げを受けると大きな引張力や圧縮力が働き、柱との接合部でも重要な力を伝えます。裏当て金は、溶接の最初の層を裏側から支える鋼材で、その位置を保つ小さな溶接が組立溶接です。
小さな仮固定の溶接でも、位置が悪ければ形状の不連続や局所的な影響が、割れの起点になるおそれがあります。特にフランジ端部付近は慎重に扱います。「本溶接でないからどこに付けてもよい」という考え方が誤りです。完成後に力を受ける場所を弱めないよう、裏当て金の材質・形状だけでなく、それを固定する溶接の位置も管理します。
各選択肢の解説
選択肢1
選択肢1:気温が低いと溶接部の熱が周囲へ急速に逃げ、冷却が速くなります。割れなどを防ぐため、気温に応じて母材を予熱します。本肢の気温2℃で、溶接線から100mmの範囲を予熱して施工する対応は適当です。母材は、接合する元の鋼材のことです。予熱は溶接金属だけを温めるのではなく、その周囲の冷たい鋼材への急激な熱移動を抑えるために行います。気温、鋼材の種類、板厚などの条件を確認し、必要な温度や範囲を満たして施工します。
選択肢2
選択肢2:T継手は、二枚の板をT字形に組み合わせた接合です。隅肉溶接では、その角へ断面が三角形状になるよう溶接金属を盛ります。本肢の3.0mmの密着不良の隙間に対しては、隅肉溶接サイズを隙間分だけ増す取扱いが適当です。隙間があるのに設計どおりの外形だけで施工すると、力を伝える有効な部分が不足するためです。ただし、どれほど大きな隙間でも盛り足せばよいわけではありません。所定範囲を超える不良は、組立て状態の修正などを検討します。
選択肢3
選択肢3:梁フランジ両端から10mm以内への裏当て金の組立溶接は避けるため、5mm以内に行う本肢は不適当です。例えば端から5mmの点は、端から10mmまでの禁止範囲の中です。組立溶接は裏当て金を一時的に保持するためでも、その溶接が完成した接合部へ残す影響を無視できません。端部やウェブ付近などの所定の禁止範囲を避け、定められた位置で固定します。目立たない小さな施工部分が、地震時などの大きな力に対する接合部の性能へ影響する問題です。
選択肢4
選択肢4:エンドタブは、溶接の始まりと終わりを本体の外へ延長し、本体の端部でも良好な溶接品質を得るための付加材です。鋼製エンドタブを残すか切断するかは、接合部の形式や特記などによって扱いが変わります。本問のH形断面柱で特記がない条件では、切断しない記述は適当です。「タブは仮の部品だから必ず除去」とは判断しません。切断が必要な場合には、切断位置だけでなく、切断面に有害な切欠きなどを残さない仕上げも含めて管理します。
周辺知識
溶接は、金属を加熱して接合するため、完成した外形だけでなく、熱の加わり方や冷え方にも注意が必要です。急冷、汚れ、水分、不適切な開先や隙間などは、割れや溶込み不足の原因になります。開先とは、溶接金属を内部まで入れられるように鋼材の端部につくる溝の形です。
裏当て金は溶接の裏側を支え、エンドタブは溶接の始終端を本体の外へ逃がします。どちらも本体の接合品質を安定させる補助部材ですが、位置や処理が不適切なら接合部に悪影響を与えます。「補助の部品なので構造には関係しない」と切り離さず、完成した状態まで含めて考えます。
本問の数値は、それぞれ別の役割です。100mmは低温時に予熱する周囲の範囲、3mmはT継手にある隙間、10mmは組立溶接を避ける端部付近の範囲です。温度管理、断面確保、割れの起点を避ける配置という目的に結び付けると、似た寸法の記憶違いを減らせます。