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学科Ⅳ(構造)

一級建築士 令和4年度 学科Ⅳ(構造) 問26

問題・正答・学習用解説

問題

建築物の構造計画に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    鉄骨造の多層骨組の建築物において、床を鉄筋コンクリートスラブとした場合には、一般に、各骨組に水平力を伝達するために、床スラブとこれを支持する鉄骨梁をシアコネクター等で緊結する必要がある。
  2. (2)
    細長い連層耐力壁に接続する梁(境界梁)は、耐力壁の回転による基礎の浮き上がりを抑える効果がある。
  3. (3)
    平面的に構造種別が異なる建築物は、構造種別ごとにエキスパンションジョイントにより分離して個々に設計することが原則であるが、力の伝達等を十分に考慮し、一体として設計することもできる。
  4. (4)
    構造特性係数Ds\displaystyle D_sは、一般に、架構が靱性に富むほど大きくすることができる。

正答と解説

正答:(4)

正答の考え方

靱性に富むほど構造特性係数Ds\displaystyle D_sを大きくできるという記述が逆です。靱性は、部材が降伏した後も急に耐力を失わず、力を支えながら変形できる性質です。大地震でその変形を利用してエネルギーを吸収できる架構では、一般にDs\displaystyle D_sを小さく評価できます。
必要保有水平耐力は
Qun=DsFesQudQ_{un}=D_sF_{es}Q_{ud}
で求めます。Qud\displaystyle Q_{ud}は基準となる地震層せん断力、Fes\displaystyle F_{es}は剛性・偏心の不利を反映する係数です。他が同じなら、Ds\displaystyle D_sを小さくすると必要な水平耐力も小さくなります。大きな力だけで抵抗する代わりに、粘り強い変形によるエネルギー吸収を安全性へ見込むためです。
ただし設計者が希望するだけでDs\displaystyle D_sを下げられるわけではありません。柱・梁・筋かい・壁などの破壊形式や部材区分、接合部の性能などから、実際に期待できる変形能力を確認する必要があります。脆いせん断破壊や接合部破断が先行すれば、想定した靱性は使えません。係数の大小を、建物がどのようにエネルギーを受け止めるかとつなげて理解します。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)RC床スラブは、各骨組へ水平力を振り分ける水平な板として働きます。しかし床を鉄骨梁の上へ載せただけでは、接触面ですべりが生じ、想定した力を伝えられない可能性があります。スタッドなどのシアコネクターで床と梁を緊結するのは、この面内せん断力を受け渡すためです。床が十分に硬いという仮定には、床そのものの性能だけでなく、梁との接合や開口周辺などの力の伝達も含めて確認する必要があります。

選択肢2

(2)細長い連層耐力壁は、地震で転倒する方向へ回転しようとし、基礎の片側が浮き上がる場合があります。壁に接続する境界梁が曲げやせん断でこの回転に抵抗すると、隣接する柱・壁などにも力を渡し、浮上がりを抑える効果があります。壁単独で抵抗する場合より、周囲の部材を含む仕組みで転倒に抵抗できます。ただし境界梁や接合部にはそのための力が生じるので、付いているだけでなく必要な性能を確保することが前提です。

選択肢3

(3)異なる構造種別を平面上でつなぐと、剛性、重量、周期などの違いにより、接続部や床を通じて複雑な力が伝わります。エキスパンションジョイントで構造的に分離するのが原則ですが、その影響と力の伝達を十分に評価すれば一体として設計できます。分離する場合も、地震時に互いに衝突しない間隔などが必要です。一体化できることと、異種構造の接続の影響を無視できることを混同しないようにします。

選択肢4

(4)靱性が高く、降伏後の安定した変形でエネルギーを吸収できる架構ほど、一般にDs\displaystyle D_sを小さくできます。式ではDs\displaystyle D_sが必要保有水平耐力に掛かるため、大きくすれば要求する強さは増す方向です。記述はこの関係を逆にしています。ただし小さな値を使うには、部材や接合部が想定どおりに粘り強く変形することを確認する必要があります。単に鋼材の強度を高くしたことを、靱性が増したことへ置き換えることはできません。

周辺知識

地震力の経路は、建物の質量がある床から、梁・壁・筋かい・柱を経由して基礎へ続きます。個々の部材が強くても、途中の接合が力を渡せなければ、その先の部材の強さを利用できません。床と梁のシアコネクターや、壁に接続する境界梁は、この連続した経路の一部です。
大地震の設計では、どこが先に降伏し、その後どのように変形するかも計画します。梁端などへ塑性変形を分散できれば、限られた場所が突然破壊することを避けやすくなります。こうした変形能力を構造特性係数へ反映するため、破壊形式の判断と係数の選定を切り離しては考えられません。
構造を分離するか一体化するかによって、力の経路も変わります。分離すれば互いの地震応答を個別に扱いやすくなりますが、接する部分の隙間などが必要です。一体化すれば力を分担できますが、硬い側へ力が集まる影響や接続部の負担を調べます。構造計画は部材を配置するだけでなく、地震時の動きと力の受渡しを計画する作業です。