学科Ⅰ(計画)
一級建築士 令和4年度 学科Ⅰ(計画) 問1
問題・正答・学習用解説
問題
次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
正解は(3)です。建築基準法が定めるのは、建築物の敷地、構造、設備、用途についての「最低の基準」です。「平均的な基準」とする部分が不適当です。平均は、良いものと悪いものを集めて求める中間的な値ですが、最低基準は、原則としてこれより下回る建築を認めないという境界です。建物の利用者や周辺の人の生命、健康、財産を守るため、社会として確保すべき土台を定めています。
例えば、学校の成績の平均点と、試験に合格するための基準点は意味が違います。同様に、建築基準法に適合することと、その建物が使う人にとって十分に快適で便利なことも別です。法令を満たしたうえで、利用人数、災害時の使い方、将来の維持管理などに応じて設計を考えます。建築士には専門家としての注意も求められるため、「法文に禁止がないから何も検討しない」という態度は適切ではありません。残る三肢は、業務を行う体制、依頼者に対する責任、建築物の環境上の責任について、それぞれ妥当な説明です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)適当です。建築士という個人の資格と、建築士事務所という業務を行う組織の登録は別の制度です。他人の依頼を受け、報酬を得て業として行う仕事には、設計や工事監理のほか、建築法令に基づく手続の代理も含まれます。例えば建築主に代わって申請手続を扱う場合も、単なる書類作業だから事務所への所属が不要という扱いにはなりません。資格者としての能力と、責任をもって業務を管理する体制を併せて確保します。
選択肢2
(2)適当です。依頼者から専門的な仕事を任された人には、その職業の者として通常求められる注意を尽くす責任があります。これを善良な管理者の注意義務、略して善管注意義務といいます。例えば、敷地の条件から特有の不具合が予測できるなら、条文にその事例が一つずつ書かれていなくても検討が必要です。必ず無事故という結果を無制限に保証する意味ではなく、専門家として合理的に調べ、説明し、判断する過程が求められます。
選択肢3
(3)不適当です。「平均的」を「最低の」に直します。建築基準法は、建物の品質の平均値や最も優れた設計を示す法律ではなく、人命や健康等を守るための最低限の条件を定めます。例えば、避難の基準に適合する廊下であっても、介助を要する人が多数使う施設では、運用に適した余裕をさらに検討します。法令への適合は設計の重要な出発点ですが、個々の建物で求められる性能を全て自動的に満たす証明ではありません。
選択肢4
(4)適当です。カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収・除去量を全体として差し引きゼロにする考え方です。建物では、断熱や高効率設備で必要なエネルギーを減らし、太陽光などの再生可能エネルギーの利用を広げることが重要です。例えば冬の熱が逃げにくい建物にすれば、暖房に使うエネルギーそのものを減らせます。再生可能エネルギー設備を載せることだけでなく、需要を抑える設計と組み合わせます。
周辺知識
建築を支える規則は、同じ役割のものばかりではありません。建築基準法は建物が満たすべき最低の条件、建築士法は専門家の資格や業務の体制、契約は当事者が約束した仕事と責任を扱います。実際の設計では、これらを重ねて考える必要があります。依頼者との約束があっても法令違反をしてよいわけではなく、法令に適合していても約束した性能を満たさなければ別の問題になります。
専門家と依頼者の間には、知識や情報の差があります。例えば材料の価格は分かっても、その材料の耐久性や修繕方法までは建築主が知らない場合があります。建築士が選択の理由と不利益の可能性を分かりやすく説明するのは、この差を埋めるためです。
環境面でも、設備の効率だけでなく、長く使うための修繕のしやすさ、材料の製造や更新などを含む視点が役立ちます。最低基準を守る責任、依頼された目的を達成する責任、社会への影響を考える責任を区別すると、本問の四つの記述が一つの専門家像としてつながります。