学科Ⅲ(法規)
一級建築士 令和4年度 学科Ⅲ(法規) 問11
問題・正答・学習用解説
問題
建築物の構造計算に関する次の記述のうち、建築基準法上、誤っているものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(4)
正答の考え方
正解は4です。限界耐力計算で、長期・短期の各応力度を許容応力度以下にする確認の列へ、地上部分の『地震時』をそのまま加えた点が誤りです。限界耐力計算では、地震に対する地上部分の安全を、損傷限界と安全限界という別の考え方で確認します。地下部分の地震時に関する確認まで不要になるという意味ではありません。
応力度は、部材の断面の単位面積にどれだけの力がかかるかを表す量です。許容応力度は、使う材料と力が続く時間等に応じて、設計上超えないようにする値です。常に載っている重さや雪、風については、規定された組合せでこの値との比較を行います。一方、強い地震では、建物が揺れて変形する様子や、変形しても耐える能力を考慮した確認が必要になります。
限界耐力計算の損傷限界は、建物が所定の損傷に達する境目、安全限界は倒壊等を防ぐための限界を表します。それぞれで建物の耐える力と地震によって必要になる力等を比較します。許容応力度等計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算は、確認の組み立てが異なる方法です。別の方法の項目を、そのまま一つの方法へ足したり、全て省略できると読んだりしないことが大切です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)適当です。高さ31mの鉄筋コンクリート造について、保有水平耐力計算の一連の確認で安全性を確かめた場合、別ルートである許容応力度等計算をさらに重ねて実施する必要はありません。ただし、保有水平耐力計算の中にも、通常の荷重等に対する応力度の確認などが含まれます。『許容応力度等計算という別方式を追加しない』ことと、『部材の応力度を一切確認しない』ことは異なります。建物の高さ等に応じ、選択できる計算方法の範囲から判断します。
選択肢2
(2)適当です。偏心率は、地震力が作用する位置と、柱や壁の配置から決まる抵抗の中心とのずれを表す指標です。ずれが大きいと建物がねじれやすくなります。保有水平耐力計算では、その影響を必要な耐力へ反映して安全を確認するため、全ての階を必ず偏心率0.15以下にするという条件はありません。偏心の影響を無視してよいのではなく、形を一律の範囲に収める方法とは異なる確認をするという意味です。
選択肢3
(3)適当です。標準せん断力係数は、地震力の大きさを定める基になる係数です。許容応力度等計算では原則0.2以上、所定の軟弱地盤の木造建築物では0.3以上を使います。一方、大地震時に必要な保有水平耐力を求める地震力では1.0以上を用います。小さい係数で通常の安全を調べる段階と、大地震で倒壊等を防ぐ能力を調べる段階を区別します。1.0を全ての計算へ一律に使うわけでも、0.2で大地震時の確認を終えるわけでもありません。
選択肢4
(4)誤りです。限界耐力計算では、常時や積雪時の長期、積雪時・暴風時の短期について所定の許容応力度の確認を行いますが、地上部分の地震時は損傷限界・安全限界を用いた確認で扱います。本肢は他の計算の並びと同じように地震時を追加しています。地震に対する確認が欠けてよいという意味ではなく、確認の方法が異なるのです。地下部分については地震力による許容応力度等の別の確認があるので、『限界耐力なら地震時の応力度は全て無関係』とも読めません。
周辺知識
構造計算には、日常的な使い方で壊れたり支障が出たりしないことと、非常に大きな地震等で倒壊しないことという、異なる段階の確認があります。例えば棚板なら、普段の本の重さで曲がり過ぎない確認と、特別に大きな力を受けても突然崩れない確認を分ける考え方です。建物では、材料の応力度、各階の変形、骨組全体の耐力等を組み合わせます。
保有水平耐力は、建物が横方向の力に対して最終的に発揮できる耐力です。必要保有水平耐力は、地震に対して最低限必要となる耐力で、ねじれやすさや変形能力等の条件も反映します。建物が持つ耐力が必要な耐力以上かを比較するため、単に壁や柱が多いという印象だけでは判断できません。
限界耐力計算では、建物がどの程度揺れ、変形したときにどの状態に達するかを考えます。『許容応力度』は材料の断面の力の物差し、『偏心率』は力と抵抗の中心のずれの物差し、『標準せん断力係数』は地震力を求める基の数値です。何を測る数値かを先に押さえれば、0.15、0.2、1.0を同じ種類の安全率として混同しなくなります。