学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和2年度 学科Ⅳ(構造) 問29
問題・正答・学習用解説
問題
鋼材等に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
線膨張係数は、温度が1度上がったとき、元の長さに対してどれだけ伸びるかを表します。自由に伸びられる棒の温度変化による長さの変化はです。は元の長さ、は温度差で、材料が同じなら長い部材ほど、温度差が大きいほど伸びます。
(3)のアルミニウム合金の値は、炭素鋼の約ではなく、一般に約2倍です。目安として炭素鋼が、アルミニウム合金がなら、長さ、温度上昇40℃のとき、炭素鋼は
、つまり伸びます。アルミニウムはで約2倍です。
この差は外装材やサッシを他の構造材へ留めるときに重要です。自由に伸び縮みできなければ、接合部への力や反りが生じます。他の肢は、衝撃に対する粘り、SN材の引張強さの区分、ステンレス鋼の腐食や高温に対する性質を述べています。強度だけでなく温度による動きも材料選択の要素です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)シャルピー衝撃試験は、切欠きのある試験片を振り子で打ち、破断までに吸収したエネルギーを測る試験です。値が大きい鋼材は、急な割れに対する粘りを期待できるため、溶接部の脆性破壊防止に有利です。記述は適切です。ただし母材の試験値だけで溶接部全体の安全を保証するわけではありません。溶接欠陥、温度、板厚、応力集中などにも気を配る必要があります。
選択肢2
(2)SN490Bの490は、引張強さの下限値に対応します。これは引張試験で達する最大応力度の区分であり、降伏点がという意味ではありません。材料は通常、それより低い応力度で降伏し、その後さらに伸びながら最大応力度へ達します。Bは品質上の区分です。板厚などに応じた降伏点の規定も別にあるため、材料名の数字を許容応力度へそのまま使わないようにします。
選択肢3
(3)アルミニウム合金は、同じ長さ・温度変化なら炭素鋼の約2倍伸び縮みするのが目安です。約とした記述は逆です。軽い金属だから温度による動きも小さいとは限りません。線膨張係数は密度や引張強さとは別の性質です。異種材料を長い距離で固定すると、膨張差によって接合部へ力が生じるので、取付け部の滑りやクリアランスなどで動きを考慮する場合があります。
選択肢4
(4)ステンレス鋼はクロムを含み、表面に腐食を抑える薄い保護膜を作るため、一般に炭素鋼より耐食性に優れます。また建築で用いられるステンレス鋼は、高温時の強度保持の点でも炭素鋼に比べ有利な性質があります。記述は適切です。ただし絶対に錆びない、火災でも強度が落ちないという意味ではありません。鋼種や環境、温度で性能が異なり、必要な耐火設計は別に行います。
周辺知識
材料の試験値は、測っている現象を区別して読みます。引張強さはゆっくり引いた試験での最大応力度、降伏点は永久変形が増え始める目安、シャルピー吸収エネルギーは切欠きを持つ試験片を急に壊す際のエネルギーです。単位もとJで異なり、同じ意味の「強さ」ではありません。
温度変化による伸びは、外力で引き伸ばした変形とも区別します。自由に動ける棒なら温まって伸びても、それだけでは大きい拘束力は生じません。両端が動けないように留められていれば、伸びようとする動きを妨げる圧縮力が生じます。逆に冷えて縮もうとすれば引張力が生じる場合があります。
建物の外装材は日射などで温度が変わり、骨組とは温度も線膨張係数も異なることがあります。そのため、部材を強く固定するほど常に安全とは限りません。力を伝える方向は確保しつつ、必要な伸縮を許す接合を設けるなど、材料の性質に合った納まりを考えます。