学科Ⅰ(計画)
一級建築士 令和2年度 学科Ⅰ(計画) 問1
問題・正答・学習用解説
問題
建築士の職責、業務等に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(2)
正答の考え方
正解は2です。建築士事務所の登録が関係する仕事は、設計図を描くことだけではありません。建築士が他人から依頼を受け、報酬を得て建物の調査・鑑定を業として行う場合も、建築士事務所の業務に含まれます。したがって、調査・鑑定だけだから事務所に所属せず業務を行える、とした記述が不適当です。
調査は、建物の状態や不具合などを調べること、鑑定は、専門知識に基づいてその状態や原因等を判断することです。例えば建物のひび割れについて、現地で状況を調べ、補修の必要性などを評価する仕事も、依頼者の重要な判断を左右します。新しい建物を設計しなくても、専門家としての責任が生じます。
建築士の免許は個人の資格で、建築士事務所の登録は業務を行う組織や管理の体制に関する制度です。資格を持つことだけで、事務所登録の対象業務を自由な立場で営業できるわけではありません。自ら事務所を登録して行うか、登録された事務所に所属して行います。『報酬を得る』『他人の求めに応じる』『業として行う』という本問の条件も、対象を判断する重要な情報です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)適切です。建物は完成したときだけでなく、長い期間使われます。設計初期から丈夫さに加えて、点検できる位置、設備を交換する経路、部材の修繕しやすさなどを検討します。例えば配管を壊さなければ点検できない壁の奥へ閉じ込めると、完成時に正常でも後の維持管理が難しくなります。建築士は、所有者や管理者が継続的に適正な維持管理をできるよう、完成後の使われ方まで配慮する必要があります。
選択肢2
(2)不適当です。報酬を得て建物の調査・鑑定を業として行う場合も、建築士事務所の業務に当たります。設計や工事監理をしないことを理由に、事務所の枠外で営業できるとした点が誤りです。例えば有償で建物の劣化を調べて専門的評価を提供する仕事は、依頼者が改修や利用継続を決める根拠になります。成果が図面ではなく報告書であっても、事務所として適正に業務を行う体制が求められます。
選択肢3
(3)適切です。建築士は、違反建築物を建てるなどの法令違反について指示したり、その実現に向けた相談に応じたりしてはいけません。自分が直接設計や施工をしなければよいという範囲ではなく、専門知識を使って違反を助ける行為も対象です。一方、違反を直す方法や適法な代替計画を助言することまで禁じる趣旨ではありません。専門家の知識を、利用者や社会の安全を確保する方向で使う必要があります。
選択肢4
(4)適切です。建築士が施工者の立場で法令違反の工事を行った場合でも、建築士法による業務停止等の対象となることがあります。設計者として仕事をするときだけ守ればよい規律ではないためです。例えば施工を担当している際に、法令に反する工事を認識して実行すれば、建築士としての信用や責任にも関わります。『そのときの仕事の肩書』と『資格者として負う責任』を分けて考えることが大切です。
周辺知識
建築士の仕事は、建物を形にする前後を通じて続きます。計画段階では利用者の要望と安全・費用・環境の条件を整理し、設計では必要な性能を図書へ表します。工事監理では施工が設計図書どおりかを確認し、既存建物では調査・鑑定などによって状態を把握します。これらは別々の名前の仕事でも、人が安心して建物を使うためにつながっています。
維持管理は、壊れてから直すことだけではありません。点検で不具合を早く見つけ、必要な補修や交換を計画することも含みます。建物の骨組より設備やシーリング材などの寿命が短いことが多いため、部位ごとに交換時期や交換方法を考える必要があります。設計初期にその余地を設けると、将来の費用や利用停止を抑えやすくなります。
資格制度も、知識を試験で確かめるだけで終わりません。事務所の登録、業務の管理、説明や契約のルール、違反時の処分などを通じて、専門家への依頼を安心して行える体制を整えます。本問は、業務が設計以外であったり、立場が施工者であったりしても、建築士としての責任が消えないことを確認する問題です。