学科Ⅱ(環境・設備)
一級建築士 令和2年度 学科Ⅱ(環境・設備) 問10
問題・正答・学習用解説
問題
吸音・遮音に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
正解は(3)です。質量則は、単層壁が重いほど音で動かされにくく、音を通しにくいという基本的な近似です。しかし実際の壁は、曲がったり共振したりする板で、理想的な質量だけでは性能が決まりません。特定の周波数で壁が振動しやすくなると、向こう側へ音を伝えやすくなり、実測の音響透過損失は質量則の予測より小さくなる傾向があります。
音響透過損失は、入射した音のエネルギーに対して通り抜けた割合がどれほど小さいかをdBで表したものです。大きいほど遮音性能が高いので、「実測値が小さい」は実際には予測より音が漏れやすいという意味です。特にコインシデンス効果では、板を曲げて伝わる波と入射音の条件が合い、遮音性能に谷が生じます。
したがって重い壁を選ぶという基本は役立ちますが、重さから求めた式だけで全周波数の性能を保証することはできません。実測の周波数別データや、壁の支持方法、接合部・隙間も確認する必要があります。本問は理想化した予測と実物の挙動を混同しないことを問うています。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)適当です。多孔質吸音材料は、繊維や細かい孔の間で空気が動く際の粘性や熱交換によって、音のエネルギーを失わせます。硬い壁の表面では空気の動きが小さいため、薄い材料だけでは長い波長の低音に十分作用しにくくなります。厚くすると壁から離れた範囲まで材料が届き、空気が動く領域を利用できるので、低周波の吸音率が上がる傾向があります。単に重量が増えたから遮音する、という仕組みではありません。
選択肢2
(2)適当です。孔あき板では、孔の中の空気が動く部分、背後の空気層が圧縮される部分として働きます。孔の空気をおもり、背後空気をばねと考えると、特定の周波数で大きく振動する共鳴器の仕組みが分かります。その振動に伴う摩擦などで音のエネルギーが失われ、吸音します。孔の径や開口率、板厚、背後空気層の深さによって得意な周波数が変わります。孔があるだけで全ての高さの音を同じように吸収するわけではありません。
選択肢3
(3)不適当です。質量則は壁の単位面積当たりの質量などから遮音性能を推定する理想化した関係です。実物では共振やコインシデンス効果で音が抜けやすい周波数があり、透過損失は予測より低下する傾向があります。透過損失が大きいほど遮音が良いので、「実測値の方が大きい」とは一般にいえません。板が厚ければすべての周波数で必ず良くなる、と短絡せず、性能曲線の谷も含めて判断します。
選択肢4
(4)適当です。多孔質材は音によって空気が内部の細かい隙間へ出入りすることで吸音します。表面を通気性の低い膜などで覆うと、この出入りが妨げられ、特に高周波数域の吸音率が低下します。汚れ防止のために厚い塗膜で孔をふさいだ場合も同じ方向の問題が生じます。被覆材が振動して別の周波数を吸収する場合はありますが、それは元の多孔質吸音と違う働きです。仕上げを含めた構成で性能を確認する必要があります。
周辺知識
吸音と遮音は、目的から分けると理解できます。吸音は室内で跳ね返る音を減らすこと、遮音は壁などの向こうへ音を通しにくくすることです。カーテンや繊維状の材料は高い音の反射を減らすのに役立ちますが、それだけで屋外の低い騒音を十分防げるとは限りません。遮音には重さ、気密性、二重構造の作り方などが関係します。
音の波長はで、音速を約とすれば、100 Hzは約3.4 m、1,000 Hzは約0.34 mです。低い音ほど空間的な変化が大きな長さに及ぶため、薄い吸音材だけでは効きにくい理由が分かります。背後に空気層を設けたり、共鳴型の構造を使ったりして対応する方法があります。
ただし共鳴は、目的によって役割が逆になります。吸音器で摩擦を伴う共鳴を起こせば音を消費できますが、遮音壁が振動しやすくなれば音を隣へ伝えてしまいます。「共鳴は良い・悪い」と一律に覚えず、どこが動き、そのエネルギーが熱として失われるのか、別の空間へ伝わるのかを追うことが重要です。