学科Ⅴ(施工)
一級建築士 令和2年度 学科Ⅴ(施工) 問12
問題・正答・学習用解説
問題
プレキャスト鉄筋コンクリート工事に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
最も不適当なのは選択肢3です。プレキャスト部材をエンクローズ溶接継手で接合するときは、一般に建築物の中央部から外周部へ向かって溶接を進めます。本肢の外周部から中央部という順序では、後から接合する部分の収縮が周囲に拘束されやすくなります。
エンクローズ溶接は、部材から出た鉄筋等の端部を突き合わせ、溶接によってつなぐ方法です。溶接した部分は高温になり、冷えると縮もうとします。周囲を先に固定して中央を後から溶接すると、その中央部分が縮む動きを外側の接合部が妨げ、残留応力や変形の問題を生じやすくなります。
中央から外へ進めるのは、未接合部分の動ける余地を残し、収縮による拘束を減らすためです。ただし、順序だけで溶接品質の全てを保証できるわけではなく、継手の位置、施工手順、溶接条件等を計画します。他の肢は、部材と同じ養生の供試体による脱型強度確認、梁の製品寸法、屋根接合部のシール幅について、所定の条件を満たした取扱いです。
各選択肢の解説
選択肢1
選択肢1:部材と同一養生をした供試体で脱型時強度を確認する本肢は適当です。脱型とは、コンクリート部材を型枠から外すことです。強度が不足していると、取外しや吊上げの際に欠けやひび割れが生じます。部材が蒸気養生を受けるなら、供試体も対応する条件で養生し、実際の部材に近い強度発現を確認します。別の温度で標準養生した試験体が強くても、部材そのものが同じ強度とは限りません。何の判断に使う試験かに応じて養生方法を選びます。
選択肢2
選択肢2:特記のないプレキャスト梁の長さについて許容差±10mmで管理する本肢は適当です。許容差は設計寸法から認めるずれの範囲です。例えば製品長さが6,000mmなら、この項目では5,990〜6,010mmが範囲となります。梁の長さの許容差を満たしても、断面寸法や埋込金物の位置まで自動的に合格するわけではありません。また、製品寸法の精度と現場で建て込んだ位置の精度は別です。部材同士が接合できるよう、各項目を対応させて管理します。
選択肢3
選択肢3:外周部から中央部へ溶接を進める点が不適当です。一般には中央部から外周部へ進め、溶接収縮による拘束を小さくします。外側が既に固くつながっていると、中央の接合部が冷えて縮もうとしても周囲が動きを妨げます。接合が完了すれば見た目は同じでも、どの順序で固めたかによって残る力が変わります。この考え方は、溶接を一部だけ繰り返し中断してよいという意味ではありません。個々の継手の施工方法と建物全体の接合順序を分けて計画します。
選択肢4
選択肢4:目地の端から左右それぞれ60mm以上に液状シールを塗る本肢は適当です。液状シールは、屋根部材の継目をまたいで連続した防水部分をつくるために用います。目地の隙間の上だけに細く塗っても、両側の部材へ十分に付着する幅が取れません。例えば目地幅が20mmなら、左右60mmずつを加えて全体で少なくとも140mmの塗布幅になります。60mmは左右を合わせた幅ではなく、目地端部からそれぞれの側へ確保する寸法です。
周辺知識
プレキャスト部材は、あらかじめ製作したコンクリート部材を現場へ運び、組み立てて建物にするものです。工場で品質を管理しやすく、現場の型枠や打込み作業を減らせますが、部材同士の接合部が力や水をどう扱うかを十分に計画する必要があります。
接合部には、構造の力を伝える役割と、水や空気の侵入を防ぐ役割などがあります。鉄筋の溶接が合格しても屋根の防水が完成したことにはならず、シールを適切に塗っても構造上の接合の代わりにはなりません。同じ目地周辺で行う工事でも、目的を分けて品質を確認します。
工場の製品検査、現場搬入時の検査、建込み位置の確認、接合部の検査という複数の段階があります。運搬や吊上げで損傷することや、寸法誤差が重なって接合しにくくなることもあるためです。部材が単体で合格していることと、組み立てた建物が要求する性能を発揮することの両方を確認するのが、プレキャスト工事の管理です。