学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和7年度 学科Ⅳ(構造) 問14
問題・正答・学習用解説
問題
鉄筋コンクリート構造に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
保有水平耐力は、建物の各階が最終的にどれほどの水平力へ抵抗できるかという「力」の能力です。一般的な計算では、定めた分布の水平荷重を静かに増やし、部材の降伏や破壊が進んだ状態から求めます。これに対して最大応答変形は、実際の地震のように地面が時間とともに往復して動くとき、建物が最も大きく変形する量です。
両者を求める問題設定が違うため、保有水平耐力を発揮したときの変形と、大地震時の最大応答変形は一般に一致しません。選択肢3が不適当です。地震時の変形は、地震動の周期や継続時間、建物の重さ・揺れの周期、振動を弱める減衰、降伏後の性質などによって変わります。同じ保有水平耐力を持つ建物でも、これらが違えば変形の大きさは変わり得ます。
例えば、同じ強さのばねでも硬さが違えば、同じ力で伸びる量は違います。建物ではさらに質量と往復の揺れが加わるので、「この力に達したときの変形」をそのまま地震の最大変形と見なすことはできません。保有水平耐力計算は、規定された必要耐力との比較などによって安全性を確かめる方法であり、全ての地震時変形を直接求めた計算と同一ではありません。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)降伏点は、鉄筋が弾性のように元へ戻る範囲を超え、力をあまり増やさずに伸び始める基準となる応力度です。短期許容応力度には、一般にJISで定める最小の規格降伏点を使います。ある試験片の実測値が高かったから、その値を任意に設計へ使うものではありません。供給される材料全体に保証される値を基にして、地震時など短期間の作用に対し、鉄筋に生じる応力度が許容範囲内かを確認します。
選択肢2
(2)構造特性係数は、部材が力を支えながら変形できる程度などを、必要な水平耐力へ反映する係数です。梁や柱が曲げ降伏して粘り強く変形する場合と、せん断破壊で急に抵抗を失う場合では、地震のエネルギーを受け止める能力が違います。そのため、破壊形式だけでなく寸法、鉄筋の量や配置、受ける応力などに基づいて決めます。構造形式の名前だけで一律に定まるものではなく、一般に変形能力が乏しいほど大きな必要耐力を求めます。
選択肢3
(3)保有水平耐力に達した点は、静的に荷重を増やす計算の中の状態です。地震時の最大応答変形は、質量を持つ建物が時間とともに揺れる運動の結果なので、その点と同じになるとは限りません。耐力が一定に近いまま塑性変形が進むこともあり、同じ力の値に対応する変形が一つとも限りません。「耐力」という力の尺度から最大変形を自動的に決めず、変形を評価する方法とその前提を別に確かめる必要があります。
選択肢4
(4)損傷限界は、建物に大きな損傷を生じさせず使用性を守る側の性能段階、安全限界は、大地震に対して倒壊などを防ぎ人命を守る側の段階です。限界耐力計算は、この二つについて地震に対する性能を確認するため、記述は適切です。一つの許容応力度だけで全てを代表するのではなく、各段階の建物の剛性・耐力・変形能力と、地盤から入力される地震の要求を対応させます。名称が似ていても、保有水平耐力計算と同じ計算手順ではありません。
周辺知識
静的な計算は、荷重をゆっくり加えてつり合った状態を見る方法です。動的な計算は、時間とともに変わる力や地面の動きに対して、物体が加速したり減速したりする過程を追います。ブランコをゆっくり押して止めた位置と、リズムよく何度も押したときの振れ幅が違うように、同じ程度の力でも時間的な加わり方が結果を変えます。
建物にも揺れやすい周期があり、地震動の周期成分との関係で応答が変わります。また、材料や接合部が変形する際にエネルギーが熱などへ変わり、揺れが減る働きを減衰と呼びます。降伏後の繰返し変形によるエネルギーの吸収も、大地震時の応答に関係します。
必要保有水平耐力は、基本となる地震力に、構造特性係数や剛性・偏心の偏りを反映する係数を掛けて求めます。保有水平耐力がこれを上回るかを確かめることで、強さと変形能力を所定の枠組みで評価します。ただし、必要耐力を満たしたという結果だけを使って、地震時に何変形するかや非構造部材がどれだけ損傷するかまで断定することはできません。