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学科Ⅳ(構造)

一級建築士 令和6年度 学科Ⅳ(構造) 問15

問題・正答・学習用解説

問題

鉄骨構造に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

選択肢

  1. (1)
    H形鋼梁に横座屈変形が生じると、その領域で局部座屈が生じやすくなる。
  2. (2)
    地震時に梁端部が塑性化するH形鋼梁について、使用する鋼材の降伏比が大きいほど、塑性化領域が広がり、塑性変形能力は向上する。
  3. (3)
    骨組の塑性変形能力を確保するために定められているウェブの幅厚比の上限値は、基準強度Fが同じ場合、梁よりも柱のほうが小さい。
  4. (4)
    根巻き形式柱脚は、一般に、根巻き鉄筋コンクリートの主筋の降伏が、他の破壊モードよりも先行するように設計する。

正答と解説

正答:(2)

正答の考え方

選択肢2は、降伏比が大きいほど塑性変形能力が向上するとしている点が逆です。降伏とは、荷重を取り除いても戻らない変形が増え始めることです。降伏比は、降伏強さを引張強さで割った値YR=σyσu\displaystyle Y_R=\frac{\sigma_y}{\sigma_u}で、降伏後にどれだけ強度が増す余地があるかを表す指標になります。
たとえば引張強さが同じ500 N/mm2\displaystyle 500\,\mathrm{N/mm^2}で、降伏強さが350と450 N/mm2\displaystyle 450\,\mathrm{N/mm^2}なら、降伏比は0.70と0.90です。0.90の鋼材は降伏した時点で引張強さに近く、さらに負担できる応力の増分が小さい状態です。地震時に梁端が先に降伏したとき、その部分が強度を上げながら周囲にも降伏を広げられる余地が小さく、変形が端部へ集中しやすくなります。
降伏比が小さい鋼材では、降伏後の強度上昇を通じて塑性化する区間が広がりやすく、一般に部材として大きな塑性変形を受け入れやすくなります。ただし、薄い板の局部座屈や接合部の破断が先に起これば、この利点を使えません。材料の降伏比と、梁の断面・補剛・接合部を組み合わせて変形能力を確保します。

各選択肢の解説

選択肢1

(1)適切です。横座屈は梁全体が横へ曲がってねじれる現象、局部座屈はフランジやウェブという板の一部分が波打つ現象です。横座屈が生じると、横曲がりとねじれによって圧縮側のひずみが一部へ偏り、その領域の薄板が局部座屈しやすくなります。二つは別の現象ですが、互いに無関係ではありません。横補剛で横倒れを抑えることと、幅厚比を制限して板のしわを抑えることの両方が必要になります。

選択肢2

(2)一般に、降伏比が小さい方が塑性化領域を広げやすく、塑性変形能力の確保に有利、と訂正します。降伏比が大きいとは、降伏強さが引張強さに近いことです。強度を高めた材料が必ず部材の粘りも増すとは限りません。梁端だけが大きく伸びたり縮んだりすると局所的な損傷が進むため、降伏後に力を保ちつつ変形をある範囲へ分散できることが重要です。降伏比と伸び率は同じ量ではない点にも注意します。

選択肢3

(3)適切です。ウェブはH形鋼の上下のフランジをつなぐ中央の板で、幅厚比はその板の幅を厚さで割った値です。柱では軸圧縮によってウェブの広い範囲が圧縮を受けますが、梁の曲げでは一方が圧縮、他方が引張りとなります。広い範囲が圧縮される柱の方が局部座屈を抑える条件が厳しくなるため、同じ基準強度なら上限を小さくします。小さい幅厚比は、同じ幅なら板を厚くすることに相当します。

選択肢4

(4)適切です。根巻き形式柱脚は、鉄骨柱の下部の周囲を鉄筋コンクリートで包み、そこを介して基礎へ力を伝える形式です。根巻き部分の主筋が先に降伏すれば、鉄筋が伸びながら力を保ち、変形を受け入れやすくなります。コンクリートのせん断破壊や付着・定着の破壊が先行すると、急に抵抗を失うおそれがあります。主筋をただ強くすればよいのではなく、他の破壊が先に起きない耐力の順序を設計します。

周辺知識

鋼材の引張試験では、最初は応力度とひずみがほぼ比例し、力を抜くと元へ戻ります。これが弾性範囲です。降伏後は戻らない塑性ひずみが増え、さらに変形すると加工硬化によって応力度が再び上がります。最大の公称応力度が引張強さです。降伏比は、この曲線の降伏点が最大値にどれだけ近いかを数値化しています。
地震時に梁端の塑性化を許す設計では、塑性化した直後に破断するのではなく、必要な力を受けながら回転できることを期待します。材料の応力―ひずみ曲線の性質に加えて、端部から梁中央へ曲げモーメントが小さくなる分布も関係します。降伏後の強度上昇の余地があれば、端部が耐える間にその近くも降伏し、変形が広がります。
ただし、材料試験片の伸びが大きくても、実際のH形鋼梁が同じように変形できるとは限りません。薄板の局部座屈、梁全体の横座屈、溶接部の破断、柱脚の破壊などが先に生じれば、材料の粘りを使い切れません。材料の性能、部材の安定、接合部の力の伝達という三段階を順に確認すると、鉄骨造の耐震設計の狙いが整理できます。