学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和5年度 学科Ⅳ(構造) 問25
問題・正答・学習用解説
問題
建築物の耐震設計に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(4)
正答の考え方
塑性化が大きいほど、安全限界時の部材の減衰特性を表す数値を小さくできる、という記述が誤りです。塑性化とは、力を除いても残る変形が生じることです。繰り返す際に力と変形の行き・戻りがずれ、その履歴の面積に対応するエネルギーを消費します。
限界耐力計算では、このエネルギー吸収を等価な減衰の大きさとして評価します。所定の安定した履歴を前提とすると、塑性化が進み、吸収するエネルギーが大きくなるほど、減衰特性を表す数値は一般に大きくなります。記述はその向きを逆にしています。
混同しやすいのは、減衰が増えることによって応答を小さくする「低減係数」の方は小さくなる点です。減衰の大きさ自体と、減衰を考慮して地震応答へ掛ける係数は同じ量ではありません。また、塑性化を大きくすれば無制限に安全になるわけではなく、部材が鉛直荷重を支え、急に耐力を失わない安全限界の範囲に収まることが必要です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)地下部分では、その部分の固定荷重と積載荷重の和に所定の水平震度を掛け、慣性による地震力を求める一般的な扱いで適切です。固定荷重は建物自体の重さ、積載荷重は人や物などの使用に伴う荷重です。地下部にはこれだけでなく、地上部分から伝わる地震力も加わるので、自分自身の重量による力だけで設計が終わるわけではありません。地下の局部の慣性力と、上から伝達される力を分けて考えます。
選択肢2
(2)地震地域係数は、地域による地震動の違いを表す係数です。同じ場所の建物では、許容応力度設計用地震力と必要保有水平耐力で、一般に同じを用います。中地震と大地震の違いは、標準せん断力係数や塑性変形能力の扱いなど、別の部分で表します。地域差の係数を、大地震だからという理由だけで別の値へ変えるわけではありません。各係数が何を表すかを分担させて理解します。
選択肢3
(3)2階以上が鉄骨造なら、その部分の部材の降伏・座屈・変形能力に対応した鉄骨造のを用いるのが適切です。1階にSRCを使っていることを理由に、上階までSRCの係数を一律に適用してはいけません。必要保有水平耐力は、対象階の構造形式と靱性を反映して求めます。構造が途中で切り替わる建物では、その境界での剛性・耐力の変化や力の伝達も別途確認する必要があります。
選択肢4
(4)塑性化の増加によって履歴吸収が増える場合、等価な減衰特性の値は一般に大きくなります。小さくなるのは減衰による応答低減を表す別の係数であり、本記述の数値と取り違えてはいけません。たとえばブレーキの効きが強くなるほど停止までの移動が小さくなるように、原因となる減衰の増加と、結果となる応答の減少は逆向きです。ただし履歴の劣化や変形限界も考慮した範囲内で評価します。
周辺知識
地震時の建物には、加速度に対応する慣性力が作用します。質量を、加速度をとすればです。通常の設計で重量に係数を掛ける形を使うのは、重量に対して加速度比を掛ければ同じ力が得られるためです。重い建物ほど同じ加速度で大きな力を受けます。
一方、建物は変形して反力を生むだけでなく、摩擦や材料の塑性などによって振動エネルギーを消費します。この揺れを減らす働きを減衰といいます。等価減衰は、複雑な履歴による消費を、計算しやすい減衰の大きさへ置き換える考え方です。履歴曲線の面積が大きいほど、同じ程度の振動に対する消費能力を大きく評価できます。
許容応力度計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算は、地震力と建物の抵抗を確認する方法や着目する状態が異なります。係数の名前だけを覚えるのでなく、地域差、周期、靱性、減衰のどれを表す値かを整理すると、ある係数が大きくなると必要耐力が増えるのか、応答が減るのかを判断しやすくなります。