学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和4年度 学科Ⅳ(構造) 問21
問題・正答・学習用解説
問題
杭基礎に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(3)
正答の考え方
建物の慣性力を検討していれば、地盤の水平変位による杭の応力を考えなくてよいという記述が誤りです。地震時の杭は、建物から頭を押される作用と、周囲の地盤が動いて途中を押す作用の両方を受けることがあります。
慣性力は、建物の質量がそれまでの運動状態を保とうとするために生じる力で、上部構造や基礎から杭頭へ伝わります。一方、軟弱地盤が地震で横へ変形すると、その中に埋まっている杭も曲げられます。たとえば軟らかい上層が大きく動き、硬い下層の動きが小さいと、層の境界付近で杭の曲がり方が急に変わり、大きな曲げ応力が生じる可能性があります。
杭頭に作用する力だけの解析では、この地盤側からの強制的な変形を十分に表せません。地盤条件と杭の性状に応じて、地盤変位の影響も評価し、適切な方法で慣性力の影響と組み合わせます。ただし両者の最大値が必ず同時に生じるとは限らないため、時刻や位相などを考慮した評価方法に従います。力の出発点が建物なのか地盤なのかを区別することが重要です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)周面摩擦力度は、杭の側面と土との間で単位面積当たりに伝えられる抵抗です。一般的な砂質地盤の評価では、杭周固定液を用いた埋込み杭より、場所打ちコンクリート杭の極限周面摩擦力度を大きく評価します。杭の工法によって土との接触状態や施工の影響が異なるためです。ただし杭の長さや周長も含めた全体の支持力の大小を無条件に述べたものではありません。また、認定された個別工法などは、それぞれの適用条件と評価に従います。
選択肢2
(2)杭を引き抜こうとすると、杭の周面摩擦に加え、杭自身の重さも下向きに抵抗します。ただし水中の部分には浮力が上向きに働くため、抵抗として使うのは自重から浮力を差し引いた有効自重です。これを長期・短期ともに考慮できるという記述は適切です。押込み方向で働く通常の先端支持力を、そのまま引抜き方向にも加えることはできません。引抜きでは抵抗の向きと機構が変わる点まで考える必要があります。
選択肢3
(3)地震による杭の応力には、上部構造の慣性力に起因するものと、地盤の変形に起因するものがあります。前者を調べても後者を自動的に確認したことにはなりません。特に軟弱地盤や地層の硬さが急変する場所では、地盤の水平変位が杭を曲げる影響が重要です。杭を「地表でだけ横から押される棒」と見るのではなく、「周囲の土の動きによって途中も押される棒」と見ると、追加の検討が必要な理由が分かります。
選択肢4
(4)杭頭の固定度が高いとは、基礎との接合で杭頭の回転を強く拘束することです。同じ水平力で横へ動こうとすると、自由に回転できる杭頭よりも、回転を止められた杭頭に大きな曲げモーメントが生じます。したがって記述は適切です。固定を強くすれば全ての応力が小さくなるわけではなく、変位や回転を抑える代わりに拘束部分が曲げを負担します。杭頭接合部の設計と、地中での曲げの分布も合わせて確認します。
周辺知識
杭が鉛直荷重を支える仕組みは、先端で下の地盤を押す先端支持と、側面で周囲の土へ力を渡す周面摩擦に分けられます。引抜きでは通常の先端支持をそのまま利用できず、周面摩擦や有効自重など、実際に下向きに働く抵抗を評価します。
水平荷重では、杭が横へ曲がると周囲の土が押し返します。この抵抗は、杭の曲げ剛性、地盤の硬さ、杭頭の拘束などで変わります。杭が長ければ、地表の水平力による変形の影響は深さとともに小さくなる一方、地震で地盤そのものが変形する場合には深い層の境界にも注意が必要です。
力と変形は関連しますが、同じものではありません。杭頭を固定して回転を抑えると、その拘束に必要な曲げモーメントが生まれます。また、土から与えられる変位は、建物から伝わる力とは別の入力です。支持力の数値、接合条件、地盤の動きを一つずつ整理し、それぞれがどの位置にどの向きの応力を生むかを考えることが杭設計の基本です。