学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和4年度 学科Ⅳ(構造) 問18
問題・正答・学習用解説
問題
鉄骨構造の接合部に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。選択肢
正答と解説
正答:(4)
正答の考え方
片側だけで接合する山形鋼の有効断面積を、全断面積からボルト孔だけ引いて求める記述が不適切です。山形鋼はL字形の二つの脚を持つ鋼材です。一方の脚をガセットプレートへボルトで留めると、力はまず接合された脚へ入り、もう一方の突出脚へは少しずつ広がって伝わります。
このため、突出脚の全断面が接合された脚と同じように有効に働くとは評価できません。ボルト孔の欠損に加え、接合されていない突出脚の無効部分を考慮して有効断面積を求めます。力が断面全体へ均等に分布しない現象を、せん断遅れなどとして評価する考え方です。
ボルトの並びや接合長さが長いほど、力を広げる範囲を取りやすくなりますが、所定の算定方法と条件に従う必要があります。また、片側接合は部材の図心と力の作用線がずれやすく、偏心の影響も考えます。鋼材が切れていない部分を全て有効面積として使えるとは限らず、どこから力が入るかまで見て断面を評価することが重要です。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)溶接の入熱量やパス間温度が過大になると、溶接金属や周辺の組織が変化し、必要な強度・靱性を確保できなくなる場合があります。そのため規定の上限を守って管理するのは適切です。パスは溶接を一回進めて置く層・ビードで、パス間温度は次の溶接を行う前の温度です。ただし熱を小さくすれば無条件に良いわけではなく、必要な溶込み、予熱、割れ防止などの施工条件も別に満たします。
選択肢2
(2)スカラップは、梁フランジの溶接を行いやすくするためにウェブ端部へ設ける切欠きです。その底付近には応力が集中し、大きな塑性変形時のき裂起点となる場合があります。ノンスカラップ工法でその切欠きをなくすと、応力集中や断面欠損を抑え、塑性変形能力の向上を期待できます。ただし、溶接の施工性と品質を確保する工法・手順が必要です。切欠きをなくすという形状変更の目的を理解します。
選択肢3
(3)高力ボルト摩擦接合は、締付けによる押付け力と摩擦でせん断を伝えます。同時に引張りが作用して板を離す方向へ働くと、有効な押付け力が減るため、期待できる摩擦によるせん断耐力を低減します。したがって引張応力度に応じて許容せん断耐力を減らす記述は適切です。せん断だけの耐力と引張りだけの耐力を、同時にそのまま最大まで使えるわけではありません。力が接触面を押すか離すかを考えます。
選択肢4
(4)孔による欠損だけでなく、片脚接合で十分に力を受け持てない突出脚の部分も考慮する必要があります。全断面から孔を引いた値は幾何学的な正味断面にすぎず、力の入り方を反映した有効断面とは限りません。突出脚へ力を渡すには接合された脚から内部のせん断で広げる必要があり、接合長さなどが性能を左右します。部材中央の断面と、端部接合近くの断面で同じ一様応力を仮定しないことが大切です。
周辺知識
ガセットプレートは、筋かいなどの端部を柱・梁へつなぐための鋼板です。そこへ山形鋼の一方の脚だけを留めると、L字の断面へ力が偏って入ります。接合部から離れるにつれて力は広がりますが、端部付近では応力度が均一にならず、一部が十分に働く前に限界へ達する場合があります。
このように、有効断面積は単に穴の面積を引いたものとは限りません。断面欠損、力の偏り、接合長さなどを考慮して、実際に抵抗へ使える部分を評価します。ボルト本数を増す際も、せん断耐力の合計だけでなく、端距離・縁距離、接合する鋼板の破断、力の分散などを確認します。
溶接でも、母材の強度だけでなく、入熱による材質変化や形状の急変による応力集中が重要です。高力ボルトでは、締付けと摩擦面の状態が性能を左右します。接合部は部材同士の境界で力が集中する場所なので、材料・形状・施工が一体となって必要な力を伝えられることを考える必要があります。