学科Ⅳ(構造)
一級建築士 令和2年度 学科Ⅳ(構造) 問12
問題・正答・学習用解説
問題
鉄筋コンクリート造の建築物において、「躯体に発生したコンクリートのひび割れの状況を示す図」と「その説明」として、最も不適当なものは、次のうちどれか。選択肢
正答と解説
正答:(1)
正答の考え方
コンクリートのひび割れは、基本的に引っ張られて開きます。斜めのひび割れを判断するときは、斜線だけを覚えるのではなく、荷重がどちら向きに部材を変形させるかを確認します。ひび割れの線に沿って引かれるのではなく、線をまたぐ方向に引かれて口が開く点が大切です。
(1)は左端が柱に固定され、右端に下向きの荷重を受ける片持ち梁です。先端が下がるので、柱に近い梁上側は引き伸ばされ、下側は押し縮められます。この荷重によるせん断作用では、上側から始まるひび割れは、下へ進むほど固定端側へ向かう傾きになります。図でいうと左下から右上への斜め線です。提示図は逆に左上から右下へ傾き、下側に達しているため、説明と対応していません。
曲げによる上側のひび割れと、せん断の影響を受けて斜めに進む部分をつなげて考えると、誤りを見分けられます。他の図では、鉄筋に沿う割裂、曲げ定着部から広がる損傷、接合部のせん断による斜めの割れが、それぞれ荷重の伝わり方に対応しています。
各選択肢の解説
選択肢1
(1)左に柱、右に自由端があり、荷重の矢印は下向きです。まず梁上側が伸びる片持ち梁の曲がり方を確認します。この条件のせん断ひび割れは、上側から下へ進むにつれて柱側へ向かう傾きです。図のひび割れは下へ進むほど右の自由端へ向かっており、傾きが逆になっています。荷重を上向きに反転すると伸びる側とせん断の向きも反転するので、矢印を見落とさないことが大切です。
選択肢2
(2)図では下端筋が破線で描かれ、そのほぼ水平な鉄筋に沿ってひび割れが集中しています。異形鉄筋の節からコンクリートへ力が伝わると、鉄筋の周囲を外へ押し開く作用が生じます。下端筋の下側は部材表面までの距離が短く、そこが割れて剝がれやすくなります。したがって、鉄筋の長手方向に沿う割れを付着割裂とする説明は対応しています。通常の曲げひび割れと向きが違う点が手掛かりです。
選択肢3
(3)梁上端筋は柱の中で下向きに折れ曲がり、右向きに引かれています。その力を受け止める曲げ定着部付近には、コンクリートを局所的に押す力や割り広げる力が集まります。図のひび割れがその折曲げ付近から柱・接合部へ放射状に伸びる様子は、定着部から力を伝える際の損傷として対応しています。鉄筋が引かれる方向にまっすぐ抜けるだけでなく、周囲が割れる破壊もあることを示しています。
選択肢4
(4)柱の上を右、下を左へ押し、左右の梁にも上下逆向きの力が作用しています。梁と柱の交差部分は正方形を平行四辺形に変えるようなせん断作用を受けます。この力の組合せでは、接合部の左下から右上へ走る斜めのひび割れが対応します。梁だけ、柱だけの矢印を見るのではなく、交差部分の四周から入る力を見てください。図は接合部内部のコンクリートが斜めに割れる状態を表しています。
周辺知識
ひび割れを読む第一歩は「場所・方向・荷重」をセットで見ることです。梁を曲げる力によるひび割れは、引張側の表面から部材の長手方向を横切るように入りやすくなります。せん断の影響が強いと、斜め方向へ進みます。付着割裂では鉄筋に沿う方向、定着部では力が集中する折曲げ部や端部付近が手掛かりです。
小さな四角を上下で逆向きにずらすと、一方の対角線は伸び、もう一方は縮みます。伸びる対角線の方向には引張作用が生じ、その方向とほぼ直角にひび割れが開きます。「斜めの引張方向」と「斜めのひび割れの線」を同じ向きに描かないようにしましょう。実際には曲げや軸力も重なるため、角度が常に45度になるわけではありません。
また、ひび割れがあることだけで直ちに倒壊と判断することもできません。鉄筋コンクリートは鉄筋がひび割れをまたいで引張力を伝える材料です。ただしせん断、付着、定着の損傷は急な耐力低下につながる場合があり、幅や進行、鉄筋の働きも含めた確認が必要です。



